木賃ふくよし(芸名)
「機動戦士ガンダム」とは言うまでもなく、日本ロボットアニメ史上において「アトム」や「鉄人28号」に並ぶ人気を誇る。
この作品には多くのモビルスーツと呼ばれるロボットが登場する訳だが、その設定の細かさ等が人気の由来の一つであると言えるだろう。
さて。この「ガンダム」においては、モビルスーツ(人型汎用兵器)とモビルアーマー(支援機)が登場するが、この中で最強のロボットは何であるかを検証してみたい。
無論、現実に当て嵌めて考えるならば、科学技術の発展に伴い、兵器は進歩している。
詰まるところ、シリーズの後期になればなるほど強い、という事が言える訳だ。
つまり、「ガンダム」より、「Zガンダム」、「Zガンダム」より「ガンダムZZ」が強いのは必然だろう。性能的に言えばどんどんと強くなっているのだから。
しかし、これは必ずしも正しいとは言えない。それはパイロットの腕でもなければ、生産コストや作戦、編成などでもない。
単純に考えて貰えば判るが、同じ戦闘飛行機として、最新鋭のジェット機と二次大戦中のプロペラ機が戦うとしよう。性能で言えばジェット機の方が格段に上だ。
しかし、この2機では戦闘にならない可能性が高い。要するに速度が違いすぎるのだ。無論、最新鋭機ならば熱追尾式ミサイルを搭載しているだろうから、コレを撃たれれば一溜まりもない気がしますが、追尾式ミサイルとて100%当たる訳ではない。旋回力を考えれば意外とかわせるかも知れない。
今回はそんなロマンも交えつつ、検証していきたいと思います。
まず、現実的に考えれば、人型ロボットは戦闘機に惨敗する。当たり前である。てくてく歩くような機動力のロボット(基本的に飛べない)が、疾風のように現れてミサイルを撒き散らして去っていく戦闘機にかなう訳がない。
しかし、ガンダムの世界では「ミノフスキー粒子」という仮想物質が登場する。この物質があると、レーダーが攪乱され、従来の追尾兵器が役に立たない、という設定だ。
これによって人型兵器が開発される事になるのだが、ここでは大前提として、人型兵器 > 戦闘機 という図式を作らせていただこう。
まあ、冷静に考えれば、前後上下も重力もない宇宙空間では人型である必要もない気がする。つまり、ボール状・・・、作中で言えば、まんま「ボール」が最強なんじゃないのか? という説もある。しかも製作コストも安いらしい。やっぱり最強のような気がする。という事は、ボールが最強なのか? いや、作中では文字通りボールのように蹴られたりして最弱扱いであった。ボール最強説には無理がある。
では、作中では無敵の強さを誇ったガンダムが最強なのだろうか? いや、違う。
どうやら設定では第一作後期に登場したゲルググ程度で、ガンダムに匹敵する性能らしい。実際、ガンダムと同じくビーム兵器の実用化に成功しているし、ジオン側が致命的な人材不足により学徒動員を行わなければ、ゲルググはもっと脅威になっていた可能性がある。
また、続編の「0080」ではアムロ(ニュータイプ)専用機として開発されたガンダム「アレックス」は脅威の性能を誇りながらも、パイロットの実力不足により、新兵の旧兵器ザクと引き分けるという、いわば惨敗を喫している訳だ。
平たく言えば、シャアの名台詞である、「モビルスーツの性能の違いが決定的差ではない」は正しいことになる。
では、パイロットさえ歴戦の猛者ならば、器は何でも良いという事なのだろうか?
答えはノーだ。アスリートならばある程度の運動は何でもこなせるだろうが、全てのジャンルでトップに立てる訳ではない。
素晴らしい料理人ならば、悪い食材からも美味しい料理を作るだろう。だが、良い食材を使うに越した事はない。悪い料理人ならば、最高の食材からも不味い料理を作るかも知れない。しかし、悪い料理人が悪い食材を使うよりは幾分マシになるハズだ。
まして、その料理が刺身ともなれば、いくら包丁の使い方が巧くても拙くても、食材の良し悪しの方に重きを置かれてしまう。やはり、持てる力を発揮するためには、良い道具を使うべきなのである。
つまり、新兵が乗っていようと強く、古強者が乗っていればもっと強く。これが理想型だ。
この点において、シリーズ後期に登場するモビルスーツが強い、という理論はまず間違いなく正しいだろう。
一つは前述のように性能差だ。単純なパワーが強い方が勝つ、という可能性は絶大だ。
もう一つはインターフェース/操作性の問題である。
戦争という消耗戦の中で、兵士を新兵からベテランに育て上げる事は難しい。新兵のうちに死んでしまったら育てようがないのだから。
そこで必要となるのが、最低限の訓練でモビルスーツを満足に動かせるインターフェースが必要になってくる。
簡単な話、かつてはキーボードが打てないと操作できなかったパソコンも、今ではマウスさえあればとりあえず初見で動かせてしまう、という入力装置の進歩に集約される。
特に、ガンダム第1話のアムロの発言によると、細かい操作はコンピュータが自動で行うらしいモビルスーツの性質だ。この点だけを見れば、後期になればなるほど性能だけでなく、インターフェースも向上している事になる。
だが、インターフェースは必ずしも向上の方向へと動いていない現実も考えていただきたい。
前述のパソコンだが、かつてに比べるとキーボード上のキーの数は増えた。Altキー(Macではcommandキー)やウィンドウズ・キーが増え、ファンクションキーの数も増えた。
日本に限定するなら変換キーや無変換キーも増えている。操作は必ずしも単純化の方向には動いていないのである。
特にモビルスーツの場合、最初は持つだけだった盾がビームシールドに移行したり、変形機構が出来ちゃったり、色んな新しい機能がどんどんと追加されていく。
最初は電話をかけるだけで良かったはずの携帯電話に、メール機能が付いたり、ゲームが出来たり、TVが見られるようになったりした例を考えて貰えば判るだろう。これではインターフェースが単純化の一途を辿るとは言えないのである。
つまり、武器や装備、機能が増えるに従って、操作性は向上していないとも言える訳だ。
ここでは、「最低限の訓練を受けた誰が乗ってもある程度強いモビルスーツ」を検証している訳だから、ここで、「後期になればなるほど強い」という理論は絶対的ではなくなる。
だとすれば、一体どれが最強のモビルスーツなのか?
一番火力が強い方が強いのか? 一番装甲が強ければ生き残る? あるいはスピード? それとも稼働時間か?
この辺りにスポットを当ててみよう。
まずの問題は火力。自分が巻き込まれない事を前提にすれば、核兵器でも積んでれば最強だ。実際にGP02は核兵器搭載ガンダムだったりする。これはほぼ最強クラスだ。
しかしまあ、核なんてのは戦略核としての意味合いが強く、ポイポイと撃つ訳にもいかない。また、宇宙空間で撃つ核ならまだしも、地上では副次損害を考えると核なんか易々と撃てないだろう。
ともなればGP02が最強と言うにはあまりにも弱い論証である。
では、単純な火力。ミノフスキー粒子によって追尾兵器が使えない前提では、ミサイル兵器の威力は半減する。しかも、飛んでくるミサイルをビームサーベルで薙払うなんてのはよくある表現だ。どうやら、ガンダムの世界では実弾兵器は弱い立場にあるらしい。
逆に言うと、ビーム兵器が驚異的な活躍をする。
何しろ、宇宙における射撃戦ともなれば、敵との距離はKm単位になりかねない。
ここで冷静に考えてみよう。
ミノフスキー粒子のもと、レーダーがまともに効かない状態で、1キロ先の動く目標に射撃を当てる。・・・坂井三郎ではないが、走りながら針に糸を通すような行為だろう。
相手が戦艦並に大きいならともかく、たかだか20m程度の動くターゲット。しかも、相手もこちらを狙ってくるので、回避運動をしながら、である。
ハッキリ言って無理すぎる。シャアも言っていたが、そうそう当たるものではない。
再び現実を見てみよう。戦争において、敵兵一人を殺すのに必要な弾丸は、一次大戦では8千発、二次大戦では2万発。ベトナム戦争では20万発とまで言われる。
これには色々な理由がある。ひとつは弾丸を消費して欲しい兵器会社の思惑。また、弾幕を貼ることによって安全を確保したり、あるいは兵士一人一人が、相手の人間を殺しているという感覚を欠如させるため。などなど。
この点で考えると、例え無駄は多かろうが、とにかく弾丸を撒き散らす方が確実で強い。
そうなると微妙にマシンガンを撒き散らしていたザクが強そうだったりするが、ザクマシンガンでは分厚い装甲に勝てなかったりする。
ならばミサイル撒き散らし型のズサあたりは強そうに思えるが、ミサイル兵器は弱かったりするし。
となると、ビーム撒き散らし型のサイコガンダムあるいはそのMkUが最強なのではないか、という事になってくる。これはなかなかに有力ではなかろうか。
しかし、劇中においてアレほどビームを撒き散らしたにもかかわらず、そのビームは皆無と言うほどに命中しない。確かに、相手は主役級のエースパイロットが多く、かわされるのも無理はない気がするが、果たしてそうだろうか?
ここでビーム兵器の特性を考えていただきたい。
ビームと言えば、瞬間的に直線的に突き進む。よって強いと思われ勝ちなのである。
しかし、現実を見るとこのビーム兵器、瞬間的に直線的に進むからこそ当たらない。
ここで野球の球で考えてみよう。真っ直ぐに打ち出す球と、弧を描くように投げる球。冷静に考えれば判るが、弧を描いた方が目標には当てられるのである。
真っ直ぐに飛ばした場合、直線なのでx,y軸の両方を合わせる必要があるが、弧を描いた場合、y軸には幾分かの遊びが生じるため、直線よりは当たりやすくなるのだ。
要するに、ビームを撃ちっぱなしにして薙払わない限り、ビーム兵器は簡単に当たってくれないのである。
ガンダム世界において、ビーム撃ちっぱなしという表現は少ない。おそらく、エネルギー消費の問題から撃ちっぱなしが出来ないと見る方が正しいだろう。現に図体の大きいモビルアーマーには撃ちっぱなし的表現が多い。
あるいは、ぶっといビームを放つか、恐ろしく長いビームサーベルで薙払うのが正解だろう。だとすれば、GP03デンドロビウムやビグザムあたりが最強ということになる。
その巨体なら装甲だって分厚くできるし、出力、稼働時間ものばせる。やはり最強か?
だが、図体のデカさゆえ的になりやすく、突き詰めれば戦艦の方が強い事になる。だが、そうなると対艦隊戦でモビルスーツが圧勝できる訳がない。これでは堂々巡りだ。
果たして本当に最強のモビルスーツ/モビルアーマーは存在するのだろうか?
どうやらガンダム世界においては、高出力のビームを扱える機体が強い傾向にある。
しかしその一方、出力を確保するためには図体を巨大にせざるを得ない。まるでドイツ軍の戦車ですよ。
とは言え、一定以上に大きい図体になってしまうと小型機に翻弄されるという側面も持っているようだ。
実際、作中にて落とされなかったモビルアーマーは存在しないと言っても過言ではないぐらいである。
だが、モビルアーマーは出現すると同時に一般兵を恐怖のドン底に陥れ、その強さを誇示しつつも主役級エースパイロットに撃墜されるという運命を引き受けている。
要するに、モビルアーマーは掛け値ナシに強いという事だろう。
即ち、板垣恵介的に言う「大きい方が強いが、それを倒す主人公はもっと強い」論理である。悪く言えば、強ければ強いほど噛ませ犬には最適という訳だ。
しかも、モビルアーマーのほぼ全機体は量産化(ビグロぐらい?)されていない。現実を見ればわかるように、良い物ほどコストも製作時間も必要という事だろう。どうやら、エースパイロットを抜きに語れば、 モビルアーマー > モビルスーツ の図式は成り立つようだ。
それを覆すのがガンダム世界における「ニュータイプ」の出現である。
この論文ではパイロット抜きにどのモビルスーツ/モビルアーマーが強いかを検証する場であるが、このニュータイプの存在はそれを語る上で避けて通れない。
まず、「ニュータイプ」とは何か? という定義であるが、作中の言葉で端的に説明するならば勘の良い人と言うことになる。あるいは精神力で現実世界に影響を及ぼせる人と言ったところか。
何しろ、何の訓練も積んでいない少年が、初見で何となく操作方法を理解していきなりベテランパイロットと互角以上に戦ったり、相手のビームをヒョイヒョイかわしたり、相手にビームをバンバン当てたりする。しかもパイロット同士、テレパシーみたいなモノで通じ合えちゃったりする。ほとんど超能力者だ。
前述のように、射撃、更にビーム兵器はおいそれと当たるものではない。だが、乱戦ともなれば何処から流れ弾が飛んでくるかも判らないし、こちらが当たらないならば、こちらも当てられないのが当然なのである。
しかし、ニュータイプはこれを覆す。追尾兵器が使えないのに、人間レーダー&センサーが働く。自分は当たらないけど、相手には当てる。それがニュータイプなのである。
しかも、主役・準主役級のキャラクタの多くは「ニュータイプ」だったりするから厄介だ。
これがファンタジー物だったら、伝説の勇者の血を引く・・・、とかいう設定なのだが、ガンダム世界において「ニュータイプ」は人の革新であるらしい。
要するに、猿が人に進化したように、人がニュータイプに進化するらしいのだ。しかも、宇宙に進出し、宇宙で生まれ、宇宙で育った人間ほどニュータイプに目覚めやすい傾向にあるようだ。遅かれ早かれ、いずれ世界はニュータイプだらけになる計算だ。
現実を見ても、米国やソ連、ドイツなど、超能力やオカルトを軍事利用しようとした例は少なくない。しかも、実例として成果を上げているサンプルがあれば尚更である。軍がこんな材料を見逃さないはずはない。なにしろ、ニュータイプは一騎当千のリーサル・ウェポンなのだから。
作中を見ても、フラナガン機関、ムラサメ研究所、オーガスタ研究所とニュータイプに関わる組織は多く登場する。
そうともなれば、いずれニュータイプがモビルスーツの性能以上の戦力差となる事は必至だ。しかも、作中には「強化人間」と呼ばれる人工ニュータイプも登場する。
それだけではない。何しろ、作中には「サイコミュ」という兵器が登場するのだから。
サイコミュとはサイコ・コミュニケーターの略語であり、要するに「精神誘導兵器」の事である。ミノフスキー粒子のもと、レーダーもセンサーも無線操作も出来ない中、相手の位置は見つけだす、相手の攻撃はかわす、さらには無線誘導兵器まで動かしてしまう。何しろ人類の進化任せなので数こそ多くはないだろうが、こんなのが敵に回ったら一溜まりもない。まして、人工的ニュータイプである強化人間なら量産の可能性もあるのだ。
これが行き着くところまで行けば、兵士は前線に出ることなく、リモートコントロール兵器のみで勝敗を決めることになりかねない。
そしてそれはいずれ、戦闘の行く末をニュータイプに任せるという危険な選択をしなければならない事になるのだ。
そこで、誰かが考えたのだろう。
ニュータイプが行き着くところまで進化したらどうなるかを。
より強力なニュータイプ/強化人間を抱える軍こそが最強になりかねない。
そして、ニュータイプとしての能力が高い者が戦況を支配しかねないのである。
そこで考えていただきたい。サイコミュ兵器の「有線」と「無線」の違いだ。
普通に考えれば、無線でコントロール出来る方が、有線よりも優れている。無線ならば有線と違い、その行動が制限されにくい。テクノロジー的に言っても、有線が無線に勝るはずはない。
しかし、これを突き詰めて考えてみよう。サイコミュ兵器は精神波により操作される。
電波ではないので、敵味方の区別は付かないはずだ。
ガンダムの劇中においてそういった描写はほとんどないが、より精神力の強いニュータイプが、相手のサイコミュ兵器に乗っ取りを掛けることが出来る筈なのだ。
つまり、自分のサイコミュ兵器が強力でも、敵の精神力が強ければそれを簡単に奪取されかねない危険を持つ。数少ないが顕著な例で言うと、カミーユのZガンダムがシロッコの乗るジ・Oを動けなくしたシーンは有名だ。(原因は両機に搭載されていたバイオセンサーと言われる)
これを例に考えると、無線サイコミュ兵器は相手に精神ジャックされる可能性が高い。強い武器ほど相手に奪われる危険は避けたい。
また、味方同士でも精神波が入り乱れて命令を混乱させる可能性が出てくる。
機能向上のために精神感応性を上げれば、そのういった危険度は上がるだろうし、パイロット一人一人に専用対応するよう精神波に調整するのは困難であろう。
そうなれば、木乃伊取りが木乃伊にならないためにも、有線にすべきなのである。
ここで、無線 > 有線の図式はひっくり返るのだ。ローテクがハイテクに勝る例は現実にも少なくない。
さて、これまでの経緯をまとめてみよう。モビルスーツよりもモビルアーマー。サイコミュ兵器は無線よりも有線。
いた。初代ガンダムに、シャリア・ブルの搭乗したモビルアーマー「ブラウ・ブロ」がこれに当て嵌まるのではないか? ブラウ・ブロこそ最強のマシンなのか?
だが、火力・機動力・装甲などのパワー強い方がいい、という点では少々決定力に欠ける。しかも、ブラウ・ブロには強烈な欠点があるのだ。
そう。ニュータイプが搭乗しないとその能力を発揮できないと言う点である。
パイロットを選ぶ、パイロットに頼るという時点で、それは最強足り得ない。誰が乗っても強いからこそ最強なのだ。
では、最強は何なのか? 結論から先に言おう。
それは、ザクレロに他ならない。
ジオン公国が作った、宇宙戦用試作型モビルアーマーである。その、有り得ないフォルムで視聴者の脳裏に焼き尽きて離れない、あのオレンジ色のナマハゲなのである。
この機体こそが最強。間違いない。
前述のように、モビルアーマーならば装甲・火力・機動力という点でモビルスーツを圧倒できる。確かに火力や装甲だけではビグザムあたりに勝てないが、機動力や必要な人員を加味すれば、巨大すぎるビグザムは最強足り得ない。
また、グラブロは水中専用だし、ニュータイプ専用機であるエルメスやブラウ・ブロではパイロットを選ぶ。この点でザクレロならばパイロットやシチュエーションを選ばない。
そして装備には拡散ビーム砲。初期段階の試作機だけに、少々心許ない点はあるが、ビームライフルよりは強力で、命中率も高い。後継機さえ作られていれば、ビグザム並の火力を持たせることは不可能ではなかったはずだ。
そして、この機体の本質は火力や機動力などではない。
いずれ戦況を支配するであろう、ニュータイプの出現を予期した、対ニュータイプ用機なのである。
よく、生半可なガンダム通が、ザクレロの両腕に装備された「大鎌」を見て、「有り得ない」と呟く。
しかし、冷静に考えていただきたい。
質量とは強烈な武器になる。ザクに体当たりの機能がある事を考えても、機体同士に接触による攻撃は充分に考えられる。その点で、体当たりや大鎌はエネルギー武器ではない。エネルギー切れを気にしないで戦える。
もっとも、燃料消費だけを気にするならば、鎌である必然性はない。そう。鎌である必然性を思い出していただきたい。前述の有線サイコミュである。
ザクレロの大鎌は、きたるべきニュータイプ有線サイコミュ部隊の手足をバッサリと刈り取るために存在するのだ。
まさにサイコミュハンター・ザクレロ。ニュータイプハンター・ザクレロ。ザクレロ万歳である。
それだけではない。あのオレンジ色の機体。ナマハゲのように開けた大口。謎の複眼。更には射抜かれたハートマーク。(搭乗者であるデミトリーのパーソナル・シンボルかも知れないが)
こんなモノが迫ってきて、精神を乱されない者がいるのだろうか?
ただでさえ、動物は巨大な眼に睨まれる事を本能的に嫌う。まして、人間が生理的に嫌う(特に大人が苦手な)昆虫の複眼だ。
これはトラウマものである。まして、この機体が量産されたあかつきを想像していただきたい。ジオンの勝利とか言う以前に、悪夢だ。
そう。ニュータイプが精神力で勝つ要素を持つなら、ザクレロはその精神力を刈り取る機体なのである。
一騎当千となりうるニュータイプを、単なる一般兵が倒せて(残念ながら作中ではそうならなかったが)しまうのだ。
ここまで言えばわかるだろう。ザクレロはそれほどまでに未来を見据えた脅威の機体だったのである。この機体の素晴らしささえ理解されていれば、歴史は大きく変化していただろう。
だが、良いモノとは(例えそれが北宋モノであっても)なかなか理解されないのが世の常である。
性能でVHSに勝るはずのβは、シェアリングで惨敗した。名銃とされるCz75も、その出自が共産国であるが故に日陰の道を歩んだ。
ザクレロもまた、隠れた名機だったのだ。その性能さえ理解されていれば。だが、歴史にifは存在しない。ザクレロの素晴らしさは、その素晴らしさゆえ、残念なことに理解されなかったのだ。
むしろ現実を見れば、良い物ほど売れないなんて例は掃いて捨てるほどある。
ここに宣言しよう。ザクレロこそが最強の機体だったのである。
まともに実戦配備されていれば、その真価は充分に測れたはずである。しかし、現実とは残酷なもの。何しろ、出撃に至っただけでも奇跡なのに、その出撃でアムロの乗るガンダムに出くわすという最悪の運命だと言っていいだろう。
そう言った不運さえなければ、ザクレロこそは更なる未来に通じる機体だった。だが、開発途中で放棄という無惨な運命を辿る。
多分、その原因も、その見た目という気はするが。
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