現代社会に適合したサンタ・ソリューション |
さうす
本書を新刊で年末にご購入なされた読者諸兄には、まるで賞味期限が切れかけの固くなったクリスマス・ケーキを食べさせるがごとくであり、某お菓子メーカーを連想させそうでまことに申し訳なく思うのだが(*1)、本項の論題はサンタクロースである。 写真 2006年12月7日 漫画家 中山かつみ氏撮影(*4) この写真には、決定的な点がいくつかある。写真が示す事実から、現在のサンタ像を推察しよう。 ○家庭への進入経路が明らかに →写真上部に見られるのは、換気扇の排気ダクトである。24時間換気が義務付けられているので、必ずといっていいほど各家庭にある。換気ダクトは現代版の煙突とも言えるのだから、サンタがこれに着目するのは必然であろう。 ○サンタが小型化 →煙突から排気ダクトへと住宅設備が変化していることに合わせて、適者生存の原理により、サンタの体が環境に適合するように「進化」したのである。 ○複数人で行動 →小型化のデメリットを補うため、集団でのプレゼント配布を行う習性を身につけたものと思われる。また、万一換気扇に巻き込まれた場合には、すみやかに救助・証拠隠滅を行わなければならない。後ろに控えたサンタは、そのための要員として配置されているのだろう。 ここで、読者の中には「サンタは1人じゃないの?」と疑問をもたれる方もあるかもしれないが、そもそも、歴史的・状況証拠的に考えても、サンタは唯一個人の人格を指す名称ではない(*5)。 同様の研究は多々見られるため詳細は省略するが、主に下記の理由から、サンタはもともと複数いたと考えて間違いないだろう。 ・古代・中世と比較すれば、現代は爆発的に人口が増加している。全世界の子どもにプレゼントを1人で配ろうとすると、非キリスト教徒を除いても、音速をはるかに超える速度で配布しなければならなくなる(*6)。サンタの飛行に起因するソニック・ブームで破壊された家屋が一切見当たらない以上、つまり、サンタは複数いると考える方が合理的である。 ・ドイツの古い伝承では、サンタは双子である。「一人は紅白の衣装を着ており、良い子にプレゼントを配る。もう一人は黒と茶色の衣装で、悪い子にお仕置きをする」と伝えられている。 また、サンタが複数いることの傍証としては、「なぜプレゼントを配るのか」を考察してみるとよいだろう。よく考えてみてほしい。そもそも、彼(ら)はなぜ、自らの私財を投げ打ってまで、世界中の子どもたちに毎年プレゼントを配ったりするのか? この背景に、何か本能的かつ「強烈な動機」があり、それに突き動かされているのでもなければ、このような非常人的な(*7)ふるまいは容易に為し得ないだろう。 そう、何を隠そう、サンタがプレゼントを配るのは、他ならぬ「繁殖」のためなのだ。 人間には遺伝子の自己保存のために性欲があり、自らの繁殖はもとより、たとえば、それを補う風俗産業や、映像機器の普及といった営みに対する強烈な動機となっている。 これと同様に、サンタには自己保存のために配布欲があり、自らの繁殖はもとより、たとえば、それを補うトナカイソリの維持や、毎年決行される世界飛行配布旅行といった営みに対する強烈な動機となっている……とまあ、考えられるんではないだろうか。 つまり、サンタは子どもたちにプレゼントを配ると「俺っていいことしたな〜ほわー」となって (中略) サンタが増えるわけだ。 増えたサンタは複数人で行動し、集団でプレゼントを配っているらしい。では、かように現代社会環境にうまく適合しつつあるサンタ、この先はどのように進化するのだろうか? ということを、ここで考察してみたい。 ○さらなる小型化 →台所の大型ファンに留まらず、室内用の細い換気ダクトも通過できるように変化するため。 ○装飾の簡素化 →ダクトを通る時に、装飾はひっかかり邪魔になる。こういった装飾はしだいに削がれていくだろう。 ○装束も簡素に。色は昔の地味な色に戻っていく →換気ダクトはホコリや油であっというまに汚れてしまうため、白や赤では汚れが目立ってしまう。汚れるたびに着替えることも考えられるが、24時間がまんできればよいのだから、汚れの目立たない黒系統のほうが明らかに向いている。 そもそも、必ずしも「赤い色」でなくともよかったものを赤色に定着させたのはコカコーラ社の広告戦略であって、もともとは庶民と変わらない色彩だったのである。このことにサンタが気づけば、早晩装束の色彩を変えてくるだろう。 ところで、ここまでで「旧来のサンタ」と「新時代のサンタ」について考察してきたわけだが、ここで「進化したサンタ」と考えることも出来る、サンタに似た存在が、すでに確認されている。共通項は下記のとおりだ。 ・小さい ・細身 ・全身が毛に覆われている ・集団で行動する ・家に勝手に入ってくる 上記の特徴を満たすもの。それは、ファンタジー方向に造詣の深い読者ならもうお気づきかと思うが、比較的馴染みのあるモンスター・「ゴブリン」である。 そう。「ゴブリン」である。 サンタクロースが、ヨーロッパの民族伝承であるところのゴブリンと似た位置付けになりつつあることは、実に興味深い現象だろう。なぜなら、サンタクロースの持つ「飛行する」という特徴が、有名なゴブリンの“遠い親戚”を連想させるからだ。 そう、他ならぬハリウッド映画にもなった小型モンスター・「グレムリン」である。 おあつらえ向きなことに、こいつは空を飛ぶ。しかも、ちょっと思い出してほしい。クリスマスプレゼントをもらったら、 “水に濡らさないこと” “光を当てないこと” “真夜中の12時過ぎに絶対に食べ物を与えないこと” この「3つの約束を守らなければならない」のではなかったか? そうしないと、恐ろしいことが起こる。たとえば、増えたサンタクロースが家の中で暴れ周り、悪戯好きとなったサンタが靴下に穴をあけることになるのである。 なるほど、これで合点がいく。NORADが追跡するわけだ。グレムリンは計器を狂わせて航空機を墜落させるのだから、同様の能力を身に着けつつある飛行サンタを厳に警戒し、あたかも年次慈善事業に見せかけて、アメリカ北方軍が公然とサンタ追跡を行うことに、合理的な理由の存在が伺えるではないか。 ついに、どうやらサンタはグレムリンになりつつある、という驚くべき事実が明らかになったわけだが、実は、もう一つ判明している「共通項」の持ち主がいる。以下の類似点を持つものだ。 ・年に1回やってくる ・子どものいる家々を訪問する ・赤い ・ふさふさしている ・音を立てる(*8) ・家に勝手に入ってくる これは驚くなかれ、「なまはげ」である。 「なまはげ」(東北・男鹿)、あるいは「あまめはぎ」(北陸)とも言われるこの装束だが、サンタクロースとの共通点は、ただの偶然とは思えないほど多くの一致を見ている。 以上の考察によって、ついに明らかになった「新時代のサンタ像」は次のようなものだ。 「クリスマスの夜おそく、 ゴブリンのように細身になった小型のなまはげ集団が、 『悪い子はいねがー』『泣ぐコはいねがー』と声を発しながら、 換気ダクトを潜り抜けて子どもの枕元にプレゼントを置いて去る。 プレゼントをもらった子どもは、“3つの約束”を守らなければならない」 それにしても、わざわざ人間の都市化に合わせて小型に進化したり増えたり。サンタさんも大変ね、と、筆者は同情を禁じえない。 と、ここまで書いてきて、幼いころに頭に浮かんだ一つの言霊が、ほんとうに真実を含んだ予言であったことにようやく思い至るのである。 サンタ、苦労す。
(*1)ほら、食品の日付書き換えが最近問題になっているしね。 あとがき |