木賃ふくよし(芸名)
合体、という言葉がある。皆さんは合体という言葉を聞いて、いったい何を思い浮かべるだろう。
合体ロボだろうか。あるいは合体する超合金玩具だろうか。また、合体変身するヒーローかも知れない。
さて。そこで考えていただきたい。
玩具、ロボット、ヒーロー・・・、子供向けTVアニメや特撮番組(そしてその玩具)に合体は欠かせない。あるいは必須とも言える重要要素である。
そこに、1+1=2という足し算は存在しない。1+1=5ぐらいのパワー(最低でも3。高ければ10ぐらい)を発揮するのだ。これぞ男の子のロマンだと言える。
だが、その合体とはいったい何なのであろう。
身の回りを見回していただきたい。
何でもいい。合体するものがあるだろうか?
ワタクシは必死になってこの世に存在するハズの「合体するモノ」を探してみた。
ない。ないのである。それは、皆無と言えるほどに。
探し方が甘いのかも知れないが、とにかく合体するものが見当たらないのだ。
あるのはTVの中のロボットやヒーロー、あるいはそれを模した玩具という存在のみ。
無論、無理に探せば、該当しない事もない。
例えば、列車の連結。これも言わば「合体」である。しかし、言葉としてはやはり「連結」が相応しく、1+1が2でしかない。「合体」の基本コンセプトには外れる。
例えば、銃。強化パーツとしてストックやらレーザーサイトやらサイレンサーをくっつけられる。これも合体の一種と言えなくはない。しかし、これは一種の付加と呼ぶべきである。1+1=5ではなく、1x=5なのだ。これも合体とは少し違う気がする。
それでは一体、合体とは何なのであろう。
基本的に人は、模倣という形から何かを形作る。
TVアニメロボットの基本が「人型」なのは、まさに人の似姿。その武器だって、剣や銃を真似る。
変身でさえ、人が努力や精神集中の結果により「化けた」などと言う、その具現化だろう。
だが、合体にはその礎となるべきモノが見当たらないのである。
合体と言う言葉について考えてみよう。
(名) スル
[1] 二つ以上の物が一つになること。
・ 公武―
・ クラシシズムと写実主義とはギリシア芸術に於いて―する〔出典: 文芸上の自然主義(抱月)〕 [2] 心を一つにすること。共同すること。
・ 君臣―
・ 今より如何に予と―し玉ふ心なきや〔出典: 八十日間世界一周(忠之助)〕
[3] 生物の有性生殖において、接着した雌雄の配偶子が核も細胞質も融合して一個の細胞になる現象。
以上が大辞泉からの抜粋。
まあ、公武合体という言葉からして、合体と言う思想は江戸末期には確実にあった事が伺える。
確かに、政党などは都合によって合体するし、うまくいけばパワーアップもするのだから、合体コンセプトには外れない。だが、政党などの場合は数の「集合」なのである。1+1=5ではない。確かにパワーアップはしているものの、質量がデカい方が勝つという理に則っているだけだ。
二つ以上のものがひとつになる、という点では、近頃の携帯電話がそれに当たる。
電話と携帯端末、それに時計にカメラ・・・。色々なものが合体している。だが、これらは合体した完成形があるだけで、合体してパワーアップ「する」モノではない。
あるいは、思想の合体という点で見てみよう。思想が交じり合うことによって、より高みを目指す事が可能になる。合体にコンセプトに似ている。だが、やはりこれは形ではなく思想的な部分だ。止揚、アウフヘーベンと言う事になる。パイロットが心を通わせたり、ロボットが合体し、パワーアップする事とは、直接繋がらない。
では、今言った「パイロットが心を通わせる」点はどうだろう。ロボットモノの基本では、パイロットが心をひとつにしないとパワーが発揮されない。これはまさに合体だ。辞書にも載っている「心をひとつにすること」の意にも副っている。
これか? いや、これだとロボットまでが合体する意味がない。
そもそも、ロボットが合体する意味は何だ?
普通に考えて、合体する連結部分の脆弱さを考えれば、初めっから「合体した形」を作ったほうが強いに決まっているのだ。
それに、合体すると往々にしてデカくなる。確かに質量も武器にはなるだろう。戦闘用ロボットとして、単純に的をデカくするのは危険だ。装甲が強くなる訳じゃないし。
特にアレだ。合体の際には変形も必要なケースが多く、合体連結+変形となると機体の脆弱性は指摘されて然るべきである。
それでも単純に質量が武器だと言うなら、量産型を山ほど作った方が質量としては脅威だろう。現実の軍隊がまさにそれだ。
ならば、別々に作って合体させる意味は?
合体するタイムロスもあるし。
例えば、それなりに合体することに意味を持たせたロボットなどは存在する。
ガンダムの場合は、コアブロックシステムによってパイロットの脱出を可能にした。しかしコレは分離と離脱であり、合体とは逆の思想になる。
Vガンダムでは、都合上パーツをそれぞれ別に開発をした経緯があるらしく、完成形として合体する必然性はあった。だが、可能ならば最初から一体型を作った方が強い事になる。
つまりアレだ。合体するに足るだけの理由をつけようとした結果、合体のコンセプトである1+1=5を果たせなかった事になる。(Vガンダムの場合は分離したパーツを敵にぶつけるという荒業で、まさに質量を武器にした訳ですが、それもちょっと違うし)
また、玩具の開発技術の問題もあるだろうが、ロボットが合体した結果、まったく別のロボットになってしまうケースもある。ダイアポロンとかダイオージャがそれに相当するだろう。これらのケースは合体には違いないが、「吸収」という言葉が正しい。
また、合体と言えばその代表作とも言えるゲッターロボ。ロボット合体モノのパイオニアと言えるだろう。
だが、これは「全てをゲッター線が解決してしまっている」ので判断が難しい。強いて言うならば、「融合」が近しいのではないだろうか。
つまり、ゲッターロボや、バロム1のような生物型ヒーローなどになれば合体して+αを得られる可能性は少なくない。だが、ロボットとなると、どう考えてもマイナス面こそあれど、プラス面は少ない。・・・なのに何故ロボットは合体したがるのだ?
ゴッドシグマなんか見るからに連結である。アレでパワーアップするようには思えない。足にくっつくだけなら、第一操縦系統が無駄じゃないか? それともくっついているのは発電系なのか? いや、それならやっぱり最初から合体させてればいいし・・・。
そんなことを考えている折、お茶の間を凍りつかせるような、とんでもないTVコマーシャルが流された。
大々的に宣伝され、テーマソングが売れたりもしたのでご存知の方も多いだろう。
「あなたと合体したい・・・」
という危険極まりないキャッチフレーズでパチンコCR機化された、「創聖のアクエリオン」である。もともとの作品の知名度を考えると、謎なCR機化と宣伝量であるが、それはまた別の話としよう。
この作品の監督である河森正治は、前述の「ゲッターロボ」の大ファンらしく、その玩具が完全に合体・変形しない事へ強い苛立ちを感じていたという。
作品自体もゲッターロボへのオマージュ色が強く、いわゆる劇中そのままの機構を用いて、完全合体・完全変形する玩具を作りたかったのだと語る。
それもわざわざ、自分で試作品を作って玩具メーカーに売り込みに行くほどの情熱を持って、だ。
そうなのだ。
答えは実に簡単だったのだ。
理屈ではない。
何故エベレストを目指すのか、と問われたジョージ・マロリーは答えたという「そこに山があるからだ」と同じなのである。
合体に理屈や理由や必然性や玩具メーカーの思惑など関係ない。
「合体させたらカッコいい」「合体させたら強そう」 それだけでいいのだ。
山と同じく、合体は男のロマンなのである。
ちなみに、前述の「アクエリオン」のTCコマーシャル2期はこんなキャッチフレーズである。
「君と合体!」
「気持ちいい〜っ」
合体は男のロマンなのである。性的な意味で。
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