禁忌のクローン

藤野龍樹



 クローン技術とは細胞核の染色体にあるDNAを他の細胞で増殖させ、母体と同じ細胞を作り、ひいては母体の完全なコピーを作ると言う技術である。一昔前のSFでは夢物語だったが、現状の遺伝子工学では、英にてドリーなるクローン羊を誕生させるなど、既に完成している技術である。当然、同じ哺乳類の羊で出来たんだから、人間のクローンも出来ると考えて間違いない。(ただドリーは短命だった。応用されて出来た人間も現状はまだ短命であると考えられている。)
 では何故人間のクローンは出来ないかと言うと、出来ないのではなく、作らないというのが正しい。技術的に可能不可能と言う次元ではなく、作ってはいけないという禁則事項のレベルでクローンは作られないということなのだ。
 では何故そんな禁則事項があるのか、というのが本論の扱うテーマである。

 表向きの禁則理由とは、いわゆる禁忌・タブーだからというものだ。神が人間に役に立つ従属物として与えた他の生物とは違い、神が頂点の存在として創りたもうた人間を同じ人間が作ることは、神をも畏れぬ行為だというのがキリスト教的な理由だ。まぁ日本人ではなかなかそこまで大仰に考えられないかもしれないが、人間は自我があって、同じ自我を持つ者がいることで、“唯一存在”であることを脅かされる恐怖とか、先述のように短命であることが自明であるにも関わらずクローン人間を作ると、思考力のある彼にその運命を受け入れさせることはあまりにも非道だという考えには納得できるように思う。
 ただ、それは本当だろうか。人間にはあまたの道徳的禁忌が存在するが、実社会では人はそれを悉く破っているのだ。人の殺傷しかり、不倫背徳しかり。だからクローンを作ってはいけないという禁止事項が、道徳的な面だけから作られ、遵守されているとは、筆者には俄かに信じがたいのだ。だからここに筆者は別の視点を設けたい。実はクローンの禁止は単純な倫理とは別な、何か実質的な理由があって禁止されたのではないかというものだ。

 実質的な理由と言うからには、実際に人間のクローンがあって、その存在が困ったことになったからという流れである必要がある。この理屈ではこれまでの社会に既にクローンがいたことになるが、隠れた存在としてそんな驚くべき人間がいたのだろうか。いや筆者はそうは思わない。クローンは全く同じ能力をもった存在であり、そもそもそんな存在を生み出す理由があるとすれば、それが益をもたらすからに他ならない。だからこれまでの社会で、何らか明らかに超人的な行為をしたことで有名になった人物を注意深く割り出せば、その人にはクローンが存在した可能性があると思われる。
 怪しいと思う人物は何人か存在する。
1.月に何本も連載を持つ漫画家
 長谷川裕一氏が飛べイサミを月一のペースで単行本刊行していたことがあって、その時に月産180ページって量に驚いたことがあったが、あの手塚治虫は40年で月産平均300ページだというからもう人間ではない。ペンを走らせることは可能かもしれないがアイデアが出るのは、自分が年に数本しか机上理論を書けないことを踏まえると驚くべきことだ。(永井豪あたりも最盛期はすごいけど、この人は一生の平均だからね。)
2.マラソンで2時間切っちゃうランナー
 これは流石にまだいないが、現れたら逆に、即疑おう。
3.これは具体名をあげよう、ジャッキーチェン
 死地を彷徨うこと数回ということなのだが、今5人目くらい?
4.四投して四連勝する稲尾投手
 今は日本シリーズで2回投番すればいい方だ。

 どうだろうか。他にもあるかもしれないが、これら人を見渡すだけでも、クローンが実際に運用されていたことが予想されるのではないだろうか。凡人のクローンを作ることに比べたら、彼らのクローンを作ることで得る利益はずっと大きいのだ。

 ただ、彼らのような明らかに超人的な人材は現在輩出されていないようだ。これは逆説的に、現在クローン人間が製造されなくなったことを意味する。では、どうして今禁止されてしまったのだろうというところにきて、ようやく本論のテーマと重なってくる。
 筆者はここに明言する。クローン人間が禁止されたのは、倫理を刺激するからと言うような社会道徳の性善説を拠り所とするような薄弱な理由からではなく、超人の活躍を好まない人たちがいたからであると。ではどんな人が超人輩出を好まなくなるかと言えば、上記4例のような存在で実害を受ける人達だ。活動が芸術的である1や3、個人成績である2などは恨みを買いにくいと思われるが、4なんて負けた方が特筆するほど大恥であることは言うまでもない。で、その負けた方があの巨人であるとなれば、尚更なんらかのテコ入れが介入したことは想像に難くないではないか。
 東京オリンピックでは大活躍した女子バレーの日本代表・通称“東洋の魔女”達が、以降のオリンピックでは凋落したのは、ブロックの際に手をネットの向こう側に出しても良いと言うバレーのルール改正によるとされる。平均身長が低い日本人が、体格のいい西欧人にネット上から壁を作られてはどうしようもないというわけだ。で、そうしたルール改正は、自分たちの国が猿ども東洋人に負けることなど許せんという西欧人のやっかみから来ていることは特筆すべきことでもなく、他の競技でも頻繁にやられていることだ。(ジャンプ競技とかね。)
 で、ここまで論を進めてくればもうお分かりだろう。クローンを作らせないようにしたのは4で大負けに負けた巨人であり、その筆頭たる渡○氏なのだ。禁止理由の馬鹿馬鹿しさと、しかしその影響力の巨大さゆえにごり押しされたであろうその経緯、そして、そこまでして巨人を勝たせたいという○辺氏の執念から来たものと考えると、こんな理由でも我々は、もう納得するほか無いのではなかろうか。

 今年のセリーグはクライマックスシリーズを導入した。ところ、知っての通りリーグ戦を制した巨人を圧倒する形で中日が優勝した。皮肉にも、クライマックスシリーズは前年二位だった巨人が一押しして導入されたもので、一番反対していたのが中日だったりするのだ。が、巨人にとっての裏目はそれだけではなく、影にこのクローン禁止と言う条項を作ってしまったこともあったのである。何故ならそのお陰で中日は53年ぶりの日本一になれたのだから。

 そう。日本シリーズにおいて現行存在するダルビッシュの、UだけでなくVとWも出てきて先発でもしようものなら、中日はとても日本一になれなかったろう。





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