加藤法之
西暦2199年、人類は謎の集団、ガミラス帝国の放った遊星爆弾の攻撃により、滅亡まであと一年という危機に瀕していた。
こう書いて判らない人間などいないくらい知名度が高かった宇宙戦艦ヤマトも、流石に放送から30年以上も経過すると忘却の彼方に去りつつあることを認めないわけにはいかないから、ちょっとあらすじを書いておく。
上記状況のため、地球表面は放射能に侵され、海も蒸発した無残な赤い星となっていた。人間も地下都市での生活を強いられ、絶滅を待つばかり。と、そこに謎の宇宙人・スターシアからのメッセージが届く。人類が自分のところまでくることが出来れば、放射能除去装置を与えようという。万に一つの可能性をかけて人類最後の宇宙戦艦、ヤマトは目的地・イスカンダルへ向けて14万8000光年×2の旅に出る。
そして、様々に立ちはだかるガミラスの攻撃をかわし、なんとかたどり着いたイスカンダルで、王女であるスターシアから放射能除去装置・コスモクリーナーDを受け取る。そして帰路、艦長が亡くなるなどの悲劇を乗り越え、ヤマトは地球に帰還する。
ヤマトが降りていく赤い地球は、ヤマトが見えなくなると同時に、元の青さを取り戻していった。
超要約だが、大まかにはこんな感じだ。少なくとも今回筆者が指摘したい事柄についてはこの短い中にも記述されているから、何しろこれを既知として話を進めることをご容赦願いたい。
さて、かようにして地球に持ち帰られた放射能除去装置・コスモクリーナーDであるが、その効果のほどはてきめんたるもので、上述もしたように使用するや瞬く間に青い地球が蘇り、一年後には宇宙開拓に乗り出せるまでに人類の勢力は回復したのだった。
本当に凄い発明なのだが、復興ぶりがあまりに凄すぎたために当時からいろいろとツッコミを入れられる対象となっていたことも否めない。こんなことができるわけがない、って具合にだ。
しかし、ホントにそうなのだろうか。当時みんなと同じように突っ込む側に回っていた筆者であったが、長じて(疑似)科学的推察が巧みになった現在の立場で、コスモクリーナーDの導入が及ぼす劇的な効果を真と考えることは、全くの不可能事なのだろうか。
本稿は、そうしたことについて考察したものである。
ヤマトの最終回ラストであっという間に地球が青く再生したこと、更に、こっちは次回作でのことになるが、設定的に次の年、西暦2200年のこととされている劇場版2作目やテレビシリーズ2作目では、太陽系全域に開拓の歩を進めていることなど、筆者も含めて当時の視聴者が思わず突っ込んでいたのもいささか無理もないとは思う。そうした状況観察的な事例に加え、科学的にも無理がある。そもそも放射能は、原子核が崩壊する時に起きる質量減少分がまんまエネルギーとして中性子やアルファ線などの放射線に託されて放出されているものだ。じゃあなぜそれが危険かというと、そうして飛散する高エネルギー粒子は見えないほど小さいが、体内の遺伝子、細胞を破壊するに十分な力を持ち合わせているからだ。大量に浴びれば瞬殺されることはもちろん、微量に浴びてもDNAがやられてしまえばそれがコピーされることで機能不全を起こした細胞が増殖し、ガンなどの放射線障害を起こしてしまう。で、更に恐ろしいのが半減期の存在だ。
放射能の元になる元素が上述した原子核崩壊を起こすのは全体から見れば少しずつ少しずつのなので、例えば放射性同位元素60Co(コバルト60)がひとかたまりあったとして、そのかたまりを構成する原子の数のだいたい半分が崩壊してしまうのに、5.3年かかる。全体の量からだいたい半分くらいの量が崩壊するのを半減期といって、放射性元素毎に特有の数値がある。131I(ヨウ素131)みたいに8日と短いものもあれば238U(ウラン238)みたいに45億年なんてとてつもないものもある。原爆は235Uや239Puを爆縮することで反応させるんだけど、そうして爆発するのが危ないのはもちろんなのだが、反応しなかった分が周囲に残っちゃうことが危ない。なにせ235Uの半減期は7億年だから、例えば人間が浴びても問題ない量の4倍だけ放射能が出ている235Uの場所があったとして、そこが安全になるのは半分の半分、つまり7億+7億=14億年待たないといけないのである。
では、ガミラスが遊星爆弾の中に仕込んでいた放射性同位元素はなんだったろう。番組当初地球は海が蒸発してしまったほど真っ赤になっている。こんなことになる初期の破壊エネルギーは隕石型爆弾の持つ質量+運動エネルギーが大きい。拍手をすると手が熱くなるのは運動エネルギーが熱に変わったからだが、それと同様の変換が、大質量の爆弾が高速で地球にぶつかる際に起き、周囲はそれこそ灼熱地獄と化すのだ。が、50kmほどの直径を持った隕石が落ちると実は地殻はおろかマントルまで達して吹き飛ぶので、人類が地下に潜ろうがどうしようが全く無力になっちゃう。そう考えると、実際には数十〜数百m単位の爆弾攻撃なのだろう。で、この灼熱状態を一年くらいだけ維持しようと思ったら、放射性元素中とても半減期の短い131Iを使えばいいのだが、これは不安定すぎて爆弾として扱いにくい。それにそもそもガミラスが地球を放射能汚染する目的は、彼らガミラス人にとっては放射能が頻繁に存在する環境が住みよい環境であるため、惑星環境を丸ごと自分たちの生存に相応しい物に変えてしまうためだった。要は彼らの立場からのテラフォーミングを行っていたわけだ。で、それを考慮するなら、ある程度彼らが永続的に植民しても大丈夫な期間環境に対して放射能を出していられる226Ra(ラジウム226)(半減期は1600年)辺りが遊星爆弾に仕込まれていたと考えるのが妥当だと思われる。
で、ようやくコスモクリーナーDに話は戻る。放射能が他の化学反応と違って制御困難なのは、例えば油がその辺に散乱していたとしたら、過激な方法だが火炎放射器などで焼き尽くせば、後には反応後の物質しか残らず、環境汚染はともかく発火の危険は無くなる。が、放射性元素の崩壊は純粋に確率的であるため、半減期を熱やショックを与えるなどの方法で短くすることは出来ないのだ。不安定な原子核に中性子をぶっつければ勿論崩壊するが、中性子を原子核に当てるにはそれなりの数を打たなければならない(百発百中というのは不確定性原理から有り得ない)ことを考えると、もしコスモクリーナーDが地球中に散らばった放射線物質すべてにそうしたエネルギーを要する処理を施すというのがその機能だったとすると、そんな莫大な装置を動かす力が、残り数十日で死滅するところまで追い詰められた人類に残っているとはとても思えない。日本のODAは燃料など揃えられない未開拓の国に火力発電所を作っちゃうなんて間抜けなことをしているが、コスモクリーナーDも宝の持ち腐れなんてことになりかねない。
かように、一見悲観的な考えばかり提出される本文にあって、既にキーとなる一つの興味深い現象が記載されている。それはヤマトの最終回、ヤマトが消えた後、瀕死の赤い地球がフェードアウトするのに置き換わるように、徐々に青い地球が現れてくる描写である。
コスモクリーナーDはその試運転の時にヤマト艦内に汚染した放射能を瞬く間に吸い込んで綺麗にしていたという描写があったから、あれを一種の空気清浄機みたいに考えるのは自然なんだけど、もしそうだとしたらラストの地球の描写は、ヤマトが降りた辺りから青い円が地球中に広がっていく、というような表現になるはずである。そうなっていないということはコスモクリーナーDが、吸う→清浄、というようなプロセスで浄化する装置ではないという推察をするヒントになるのである。
(放射能が煙のように“漂う”というのもよく考えるとおかしな表現なのだが、まぁこれはアニメとして視覚的に見せる表現と考えることにしよう。放射能出す岩石をゴロゴロと転がしてくるとかじゃカッコ悪いし、粉塵を送り込んだんだとしても、主人公達がその中にいるデスラーと会話するのはドラマ的に無理があるからだ。)
筆者がここで立てる仮説は、
コスモクリーナーDは、指定した空間の時間経過を調節できる機械である
そして、指定した空間は、人間の居住空間以外の地球全域である
というものだ。
理由の一つ目は勿論放射能とのかかわりだ。放射能の半減期が人間の時間よりも極端に長いものであることが影響を深刻化させていることは既に述べた。地球全土を放射能が覆ってしまうと、もはや気長に待つ以外、再び住めるようになる方法は無いのだ。ということは、転じて考えれば、地球規模で時間経過を早めることができるなら、安全状態に戻すことはさほど困難ではないことになる。
他の復元状況もこの仮説を後押しする。というのも、青い地球が徐々に現れたということは、徐々に水が戻ってきたと言うことである。爆弾の破裂で水は水蒸気になり大気圏外に飛ばされるが、それは消えたわけではなく、地球の重力によって再び落ちてくるのであり、それがずばり1000〜1万年単位の出来事なのである。(先カンブリア期より前の地球は結構隕石に晒されていたから、先述したように地殻ごと破壊されることもあったようだ。その時地表は数千度の地獄になるのだが、冷えるにしたがって水は再び落ち、ご存知のように海を作った。)ラストの地球の変化がとても長期的な現象を早送りで見せていたのだとしたら、あれは至極納得できる描写だと言うことになるのである。
更に、技術文化的にも指摘できることがある。ヤマトが宇宙の旅の途中もっとも苦しめられたのは、ガミラス一の勇将・ドメル将軍との七色星団における決戦であった。ここでヤマトは突然戦闘機の雷撃を受けるのだが、戦闘機ってのは機動力はあるが航続距離がないので、空母の陰すら見えない空域での攻撃に、最大のピンチに陥ってしまうのである。で、そんな有り得ない攻撃を可能にしたのは、ガミラス有数の科学兵器、瞬間物質移送機というものだった。母艦に取り付けた同装置から光線を発すると、照射した物質を任意の場所に空間転移することが可能なのである。
そんなSF心をくすぐる兵器が作れるくらいガミラスは凄い文化を持っているのだが、実はガミラスはイスカンダルと、お互いがお互いの周りを回って恒星を公転する二連惑星になっている。そうであるなら、両星で文化的交流が無いと考えるほうが不自然なので、すなわち瞬間物質移送機のノウハウはイスカンダルでも有していたと考えるのは非常に自然なのである。
ここに一般相対性理論を考慮すると、そこでは時間と空間が同じパラメータで扱われている(x、y、z、tc)のだから、空間転移の挙動を時間転移・経過に転化することはそれほどの技術的飛躍を伴わないとも予想できる。すなわちこうした技術論的観点からも、筆者の仮説は証拠だてられるのである。
地球は実はあのラストで何万年も経っていた。新生した地上に再び立った人類は、そこに何万年も放置された手付かずの自然が広がるのを見ただろう。(実際は微生物くらいしか生き残れないから、ある時間単位で種をばら撒いたことも考えられる。)生物資源を自由に使用できた人類が、復興に有する時間をさほど要しなかったとしても不思議ではない。
更に、もしうっかり人間の居住空間まである程度経年するとしたらどうだろう。みんなで竜宮城に行ったら何百年経っても同じってのはかつての名作・うる星2の論理だが、それが実際人類に起こったとしたら、次の年に白色彗星帝国に襲われるなんて理不尽があったとしても、何万年も平和だったんだから仕方ないなぁと思えるではないか。(デスラーは宇宙空間で救助され、蘇生されたのだから、漂流期間が長かったんだと考えると帝国に所属していても不思議ではない。宇宙じゃ体は腐らないんだから。)
さて、こうして積年の鬱積をようやく晴らしたのであるが、この話を知人にしたところ、「コスモクリーナーDって、今ならコスモクリーナーV1.5なんてネーミングになるよね。」なんて揶揄されたが、確かにそうだ。そしてそう考えるなら、人類が存亡をかけて使用するのは
コスモクリーナー V2.3
辺りまで待ったほうが信頼性が高くて確実だろう。
おわり
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