どじっ娘、今後の動向

藤野竜樹



 文化庁による高松塚古墳破損の内部処理による揉み消しの件について、原因はどじっ娘にありとした調査委員会の報告を受け、政府は迷走するどじっ娘対策に頭を悩ませている。
 発端は、文化庁が去年、遺跡修復作業時の過失を内部処理だけで済ませた事実が発覚したことによる。これは同庁による高松塚古墳の修復作業中に起こったもので、壁画の一部を誤って剥落させたこと、更に墳室内に持ち込んでいた空気清浄機を倒すことで、壁面に大きく傷をつけたことを指す。この傷は目立たないような再修復を施されたものの、外部への公表はされなかったため、同庁の姿勢を重く見た政府により調査委員会が設置されていた。同委員会はこれまで独自に調査をしていたが、このほどこの二つの傷をつけた原因が、女性特有の失敗連鎖性症候群、いわゆる“どじっ娘”特性を持つ者を関係者としていたと公表したことから問題が複雑化した。
 そもそも“どじっ娘”は“幼馴染”や“お嬢様”と共に絶滅危惧種とされている。“ツンデレ”の隆盛により昨今徐々にではあるが回復の兆しを見せる“お嬢様”に比べ、世間ずれしていないことが維持要因である“天然”記念物“どじっ娘”は、現在その存在確認が瑞兆とされるほどに貴重なものとなっている。しかも高松塚古墳に出現したどじっ娘は調査委員会報告に拠れば“Meクラス”だったとされ、『水を入れたコップを載せたトレイを持って現われた彼女は唐突に転倒。「スミマセンスミマセン」の言葉を発しながら割れたガラス片を集める際の振る舞いで壁を損傷。「あっ!」と叫んで後方に一歩退いた瞬間に空気清浄機を蹴飛ばし』たとある。この場に居合わせた者の目撃では更にこの右足を『バケツに突っ込み、モップ、洗剤等が続けて蹴飛ばされた』らしく、あろうことかこの目撃者が止めに入らなければ、振り回されるアホ毛により墳室内は壊滅的な被害を蒙る可能性すらあったというのだ。全く空恐ろしい。
 国宝である高松塚古墳を壊滅の危機に陥れたにも拘わらず文化庁が彼女の関わりを秘匿しようとしたのも、一つには出現したどじっ娘の存在を瑞兆とみなし、更に“天然のままに残したい”という思惑があったのかもしれない(一説には庁幹部の娘とも言われるが)。だが、どじっ娘はその存在率の低さの割に、何らか重要な曲面で現われることがマーフィーの経験則から明らかになっており、これまでにも優勝のかかった20mのロングパットを決めようとする場面や腹膜炎治療中の手術室内、ギネスに挑戦する数のドミノが並べてある体育館など、さまざまな施設で出現したことが報告されているのだ。このためこれまでにも「保護以前に優先するものがあるのではないか。」との疑念は各部署から意見されていたわけで、これを知らなかったとするのなら同庁はまったく軽率だといわざるを得ない。
 本報告を受けた政府は“保護か規制か”の問題にそろそろ明確な立場をとる必要に迫られているのだが、規制したとして、300万人いるとされる“ど連”(オタクによる“どじっ娘”観察連合)の大反発は明らかであり、総理は頭を痛めているというのが現状だ。
 なお、委員会による本報告は元々三ヶ月前に政府に為されることになっていたのだが、データの損失により報告書を再構成する必要があったとかで、今日まで遅れてしまったらしい。なんでも同資料をまとめていたPCはOSがMeだったとかで、その体質にはやれやれというほかない。





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