あんたがたどこさ

加藤法之



 さて。童謡、童歌というと、今ひとつその意味を理解しかねるものがあります。
 「かごめかごめ」などはその最たる例ではないでしょうか。
 籠の中の鳥。夜明けの晩。後ろの正面。これらが何を意味するのか。これらには諸説あって、死産を歌ったとか、死の世界を歌ったなんて説もあります。
 童謡というと和製のものを思い浮かべがちですが、世界的に見ても同様である。←洒落ではない。
 西洋で言えばマザーグースなどが有名ですね。「ロンドン橋落ちた」最後の節、マイフェアレディは人柱を意味するとか、「誰が殺したクックロビン」(パタリロではない)とか、似たような話は掃いて捨てるほどある。
 それも、どうやら血腥いニオイのする歌は少なくない。
 そう考えると、あらゆる童謡がそんな風に思えてくるのは間違いだろうか。
 ワタクシが最近気になっているのは「あんたがたどこさ」である。

 あんたがたどこさ  肥後さ 肥後どこさ  熊本さ
 熊本どこさ  せんばさ せんば山には  たぬきがおってさ
 それを猟師が 鉄砲で撃ってさ
 煮てさ  焼いてさ  食ってさ
 それを木の葉で  ちょっとかぶせ

 と言う歌詞が一般的で、一説には戊辰戦争時に熊本藩出身の兵士が子供に聞かれたときの逸話がもとになっているという。
 しかし、歌の発祥地とされる熊本では最後の節が違う。

 「それを猟師が 鉄砲で撃ってさ 煮てさ 食ってさ」までは同じだが、最後の部分だけ、

 うまさがさっさ

 また、熊本.Verには2番があったりする模様。
 「熊本どこさ せんばさ」までは同じだが、

 せんば川には エビさがおってさ
 それを漁師が 網さでとってさ
 煮てさ 食ってさ うまさがさっさ

 というらしいのだ。
 まあ、普通に考えればアレである。肥後の国の人吉藩(熊本の隣)は、九州山脈(せんば山)に囲まれ、さらには船場(せんば)もある。
 まあ、木の葉で隠すのは食べた後の○○○って事になるのだろう。
 つまり、熊本のタヌキは美味しいよという自慢になるのだが、熊本の名産と言えば有名なのは馬だったりする。それに、食後の処理方法まで指南する必然性はない。かと言って熊本.Verの「うまさがさっさ」ではヒネリがなさすぎる。
 何だろう。この違和感は?
 調べてみたところ、熊本の名産と言えば、馬刺、辛子蓮根、竹輪、ずいき・・・、狸の文字は見当たらない。海老でさえ探すのに苦労するぐらいだ。
 地元自慢の歌でないとするならば一体コレは何だ?
 気になるのは、「煮て」「焼いて」食べる際の調理プロセスが2段階と言う点である。
 煮てから焼くという調理プロセスが特に珍しい訳ではないが、焼いてから煮るよりは頻度が低い。
むしろ気になるのは「煮て食うなり、焼いて食うなり」という俎板の鯉の状態を示す言葉の順であることだろう。
 つまり、相手は手も足も出ないだろうから好きにしちまえって事を言っている。
 そして、「それを木の葉でちょいと隠(かぶ)せ」と続く。
 なんだ? 鷲巣麻雀に負けて血を抜かれて埋められた偽アカギのようなこの違和感は?
 更に調べてみると、この歌に関して奇妙な説が出てきた。
 江戸時代、人吉藩主である七代相良頼峯が毒殺された。いわゆるお家騒動である。
そして、急遽その跡を継いだのが相良頼央。もとより、この頼央を藩主に就かせるための暗殺である。
 だが、間もなく頼央までもが暗殺された。血を血で拭う報復である。凶行に及んだのは、改革政策で対立する家老派。暗殺に使用された武器は、鉄砲。
 だが、藩はこの事件を隠蔽したのである。
 こんなお家騒動が江戸にまで届こうものなら、お家取り潰しは免れない。そして、藩主頼央死後1ヶ月、公式発表は「急病による病死」となった。
 隠匿したこの事件だが、やはり何処からとなく外へ漏れだし、「あんたがたどこさ」の童謡へと繋がったというのである。
 確かに暗号好き(間者に会話内容を悟られぬよう方言を強調する)の九州なら有り得る。家老派が事件の真相を知らしめるため、言葉を換えてリークした可能性は捨てがたい。
 ふむ。一見筋は通る。
 しかし、それにしてはどうにもパンチが弱い気がしてならない。
 だが、ヒントは見えた。血腥い暗殺劇と隠蔽工作が関与していることは間違いないだろう。
 その時、ふとワタクシの頭の中に幾つかのキーワードが思い浮かんだ。
 この歌がもし、未来、つまり現代に起きうる問題を予知した警鐘の歌であるならば――!?
 こうは考えられないだろうか――?

 肥後→庇護
 熊本→親元
 せんば→アキバ
 たぬき→たぬきのような人
 猟師→両親
 煮て→ニート

 つまり、歌にするとこうだ。

 あんたがたどこさ 庇護さ
 肥後どこさ 親元さ
 親元どこさ アキバさ
 秋葉原にはたぬき(のようなおたく)がおってさ
 それを両親が鉄砲で撃ってさ
 ニートさ (手を)焼いてさ (人を)食ってさ
 それを木の葉でちょいと隠せ

 親元を離れないでいるアキバ系おたくがニートの癖に、あまりにも人を食った態度で、それに手を焼いた両親が思わず鉄砲で撃ってしまい、その死体の処理に庭に埋めて木の葉で隠す・・・。
 そんな社会問題を予知した歌だった――。
 今、この話を読み終え、相良家の暗殺劇に的を絞って掘り下げ、話をまとめてれば良かったのに・・・、と思った人は多い事だろう。
 ちなみに、ワタクシもその一人である。





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