日曜洞窟探検家は本当に死にやすいのか

さうす




 20年ほど前に日本で、とてつもない大ブームを巻き起こした一つのマシンがある。HVC-001ことファミリーコンピュータ。そう、「ファミコン」である。

 この1983年に登場し一世を風靡したコンシューマゲーム機は、当初は若年向けのサブカルチャーから出発したが、それから数多くの名作の出現とともに社会現象を巻き起こし、多くのプレイヤーを得てその知名度を上げていった。

 2003年に生産こそ停止されたものの、ファミコンが育てたゲーム文化は以後一つの産業として認められ、輸出品として国家レベルで注目されるまでになっている。

 後継機に道を譲った後も、ゲームの代名詞としてその名の残った家庭用ゲームハードウェア。それがファミコンである。

 ファミコンがそこまでヒットした理由はいくつもあるが、『スーパーマリオブラザーズ』『ドラゴンクエスト』シリーズといった定評のある良作に恵まれた事も大きい。

 どれだけ良い出来のハードであっても、その上で動くゲームに魅力がなければ購入には結びつかない。そのことは、ファミコン以前・以後に商業的に成功せず現れては消えていった、あまたの懐かしきハードたちが自ずと物語ってくれる。

 まずはソフトウェアありき。これはゲーム文化を語る上で前提となる考え方だろう。

 とはいっても、ハードウェアの限界から実現できるゲームの内容は自ずと限定されてしまっていた。現在のように高速な演算、リッチな3Dポリゴンや動画・サウンドのエンジンはまだ存在せず、貧弱なマシンパワーにスプライト、単純な波形を組み合わせるサウンド機能といった程度で、現在のようなビジュアルに訴えるゲームを提供することは、当時ほとんど出来なかったのである。

 当時の崇高なるゲームクリエイターたちは、そういった制約を回避し、あるいは立ち向かう事を通じて、実現可能な選択肢の中から必然的に「ゲーム性」の本質に到達していった。競争と対決のせめぎあい、仮想空間における動きの楽しさ、独特なアルゴリズム、独自に構築された内的世界とストーリー……ビジュアル面の弱さは想像力で補うように仕向け、ドット絵のシンプルさをむしろ魅力に転じた。

 ファミコン黄金時代は、そんなクリエイターたちの血のにじむような探求によって、爛熟したのだ。

 そして、そんな試行錯誤から、数多くの伝説的な作品が生まれた。制作者の情熱が空滑りし、伝説のクソゲーとなった作品があるかと思えば、瓢箪から駒、後に一ジャンルを構成するまでに育った作品もある。もちろん、名前すらろくに挙がらない作品もある。

 ここでいちいち具体名は挙げないが、同じ作品に対して、ある者は間髪入れずに「難しい」「クソゲー」などと呼び、ある者は「良くできた名作」と評価する。そんな作品が多いのだ。

 机上理論として俎上に載せるに値する作品はあまたあるが、今回テーマとして選んだのは、その中でも特に評価の分かれる一品だ。当時を知る者なら、この作品の難易度とクセの強さに関しては誰もが認めるであろう。「スペランカー」である。

 スペランカーは、アイレム株式会社(現・アイレムソフトウェアエンジニアリング株式会社)より1985年12月7日発売。アイレムのソフトはROMカートリッジに燦然と輝く赤いLEDが特徴であり、LEDじたい当時は珍しく話題を呼んだ(後に、LEDなしバージョンも販売された)。
 アタリ版の作者はティム・マーティンだが、コモドール64版を経てファミコンに移植されるに当たり、ライセンスを受けたアイレムによって相当の改変が行われた形跡が伺える。

 パッケージイラストは、洞窟の中で今にも襲い来る「ゆうれい」と「コウモリ」に、銃のようなもの(NES版説明書ではファントムブラスター、MSX版ではソニックガンという名前だ)で立ち向かう主人公。その主人公のいでたちは、半袖の探険服にジーンズにブーツ、かなり重そうな荷物を背負っており、ヘッドライトをつけたヘルメットをかぶっている。足下には、以前に訪れた冒険者の哀れな末路であるところのガイコツと、財宝の入った宝箱。そしてパッケージ裏には、さらに冒険心をかき立てるコピーがある。

「地底どうくつの中は深い迷路だった! 地底どうくつ探険者、それがスペランカーだ。高くふき上げる水、あつい蒸気、そしてつめたく暗い死の滝など伝説のピラミッドへたどりつくには、数多くの難関をクリアーしなければならない。ひるむなスペランカー! 伝説のピラミッドには、ぼう大な宝物が君をまっている。」

 このゲームに関する先達の研究は「クソゲー処理概論 スペランカー講座」という名のWebページに詳しい。スペランカーの基礎的な知識や資料の写真、ゲームのクリアの方法やアルゴリズム解析・隠された裏技などは、まずこのページを参照いただくのがよいだろう。

http://www.spelunker.jp/

 また余談ではあるが、アイレムのホームページ内「ふる里4コマ小唄」にて不定期連載されている「スペランカー先生」は非常に面白い。スペランカーファンなら必見である。

http://www.irem.co.jp/

 さて、本論で取り扱うのは、上記のサイトでさんざん語り尽くされたような普通のネタではない。  まるで当然のことのようにこれまで語られてきており、誰も疑問に思わなかったのではないかと思われる「(ファミコン版の)スペランカーは貧弱であり、死にやすい」という、すでに定評となった常識 についてである。

 世間一般にこういった印象がもたらされたいちばんの原因は、このゲームを一回プレイするか、あるいは経験のない人にプレイさせてその様子を観察すれば、おのずと明らかとなる。

図1_スペランカー初期画面
図1_スペランカー初期画面

 くだらないことで喜んだり悩んだりしていたあの当時、オモチャ屋のショーケースに入ったパッケージを見つけて、見果てぬ地底探険の想像をたくましくした小学生が、お年玉とお小遣いを貯めて集めたなけなしの4,900円(そう、当時は消費税も存在しなかった)を握りしめ購入し、胸を高鳴らせながら帰宅。  さあやるぞ大冒険だ! 目指すは億万長者だ! と勇んでカートリッジをファミコン本体に差し込み、小豆色の電源スイッチを押し上げる。するとたちまちカートリッジ上の赤いランプが点灯して、根拠もなく未来的なイメージを駆り立てる。

 同時に、画面には何か読めない文字がたくさんと、青地にオレンジのスペランカーというタイトル(英語はぜんぜん読めないが、ゲーム名と同じということくらいは分かる)が躍り、正弦波の和音で重苦しいオープニング音楽が響く。

 そういや、このあいだヨシノリの家で遊んだ、黄色いカセットのスーパーマリオ はすっげえ面白かったよなあ。あんなふうに地下にもぐって、派手なアクションで敵を倒しまくるぞ! なんてことをあれこれ考えながら、コントローラーの1コンをにぎりしめ、スタートボタンをプッシュ。そこでテレビに現れるのは、図1のようなカラフルな縦穴ダンジョンの画面である。

 どうやら上下でエレベーターが動くらしい、と直感的に理解して、とりあえず最初の階層の高さまで移動する。こんなことは説明書なんて読まずとも、ファミキチとまで呼ばれたファミコン少年にはお手の物だ。楽勝楽勝。

 しかし、それから右に移動すると、エレベーターと岩棚の隙間に落ちてあっけなく死亡。あっと思う間もなく、押したままにしていた十字ボタンの右が、復活して点滅している次の主人公1人の命を奪う。
 ああそうか、ここはジャンプしなきゃいけないのか、と気がつき、エレベーターから棚にジャンプ。よし、なんとか隙間から落ちずに済んだぞ。ドル袋ゲット。
 お、次はリフトか。なんかスーパーマリオみたいだけど、地下って言えばやっぱりリフトだよな。でもこんな身長くらいの高さでリフトなんかいらないじゃん。マリオはBダッシュジャンプしてブロック壊すんだぞ。ジャンプして超えちゃえ。あっ死んだ。

 ……このように、ほとんどたいていの人が初プレイのこの画面で、最初の残機3人を失う。この間1分足らず。BGMは一巡すらしていない。真っ黒の背景に「YOUR SCORE 500」と宣告されたゲームオーバー画面で一瞬呆然となりながらも、過去のゲームの経験則からやり直しを早めるべく押したスタートボタンは無情にも、なぜかゲームオーバー画面にポーズをかけてしまう。「怒る」と「泣く」が半々の体で、思いっきりリセット。

「なんだよ! このゲーム。わけわかんねえ」……スペランカーを知っている人で、これに近い経験をした人は結構多いのではなかろうか。

 ここで意地になってプレイを続け、主人公の屍の山を築きながらも、急峻な習熟曲線をしがみついてはい上がり、上り詰めた先にあるスペランカーの飽くなき魅力に開眼するような剛の者もいれば、ボートやトロッコに行き着くこともなくそのままプレイを断念し、購入に踏み切った自分の判断を後悔しながら、後々まで言われ無きクソゲー呼ばわりを続ける者もいる。しかし、その是非は本論では問わない。

 ここで着目したいのは、「この状態は、本当に『貧弱』で『死にやすい』のか?」という一点だ。

1.スペランカーは本当に貧弱なのか?
 確かに、主人公であるスペランカーは、身長より少し高いところから落ちただけで死んでしまうし、そのことが、あまたあるゲーム群を押しのけて名前の挙がるゆえんでもある。では、スペランカーにおいて死ぬときの条件 を挙げてみよう。

△a.落とし穴
△b.Vの字の裂け目に落下
★c.落盤(トロッコ)
★d.高温高圧の水蒸気噴射に接触
★e.地下水脈への落下
★f.爆弾の爆風圏内に入る
★g.高所から落下
☆h.身長程度の高さや狭い隙間への落下
☆i.坂道でジャンプ
☆j.間欠泉上の皿が下りの時にジャンプ
☆k.ゆうれいに接触(本体・残骸)
☆l.コウモリのフンに接触
☆m.フラッシュの残骸に接触
☆n.エネルギー切れ

 ★印をつけた死亡条件、つまり爆弾の爆風や水蒸気噴射に落盤、高所からの落下で死ぬのはまだわかるとして、身長程度のVの字の裂け目や坂道でジャンプしただけで死ぬ、というのが「貧弱」で「死にやすい」派の主張だ。(ゆうれいはとりあえずいったん置いておく)

 また、エレベーターと棚板の間のような隙間に落ちたりする場合、とっさにしがみつけるではないかと思える事も事態を混乱させているし、打ち上げたフラッシュの残骸やコウモリのフンで死ぬのはいかがなものか、という意見もある。

 さて、「貧弱」というのは、通常考えられる平均と比べて、著しく能力や体力などが劣っており弱々しいさまを指すと考えられる。

 平均的な「洞窟探検家」とはいかなるものだろうか? おそらくは十分な装備を調え持ち歩くだけの体力を有し、慎重にダンジョンの障害物を越え下っていく理論派であり、探険というからには未知の領域に踏み込んでいく機知と勇気も兼ね備えている、そんな存在に違いない。この観点からスペランカーを見ていこう。

○彼は重装備である
 スペランカーといえば、何も持たず手ぶらで洞窟をジャンプして超えていくイメージがあるかもしれない。

 しかし、彼のグラフィックを再検証してみると分かるように(図2)、彼は10ドット分の荷物を背負っている。彼を構成する全体は95ドットであるが、ここからヘッドライトとヘルメットに相当する13ドットをさらに除くと、スペランカーの体は72ドット分で描かれている事から、実に体全体の32%程度が荷物と装備に費やされていることが分かる。

 スペランカーはゲームの出自とイラストから分かるように、やせ形の西洋人成人男性であることから、体重はおよそ60〜80kg程度だと推測される。つまり、30〜40kg程度の荷物および装備を合計で背負いながら洞窟を探検していることになる。
 そして、忘れてはならないのが、彼は洞窟内で手に入ったアイテムを捨てることなく全部入手して持ち帰っていることだ。これを重装備と言わずして、なんと言うだろうか。

 これほどの重装備でありながら、スペランカーは洞窟内の裂け目をジャンプし、つり下がったロープを縦横無尽に渡る。こんな芸当を、足腰を壊すことなくやってのけるだけでなく、あろうことか時には洞窟内を走ったりもしている。貧弱な男ではとてもできないワザ だろう。


図2 スペランカー身長
図2 スペランカー身長

○彼はアマチュアである
 調べてみればすぐに分かることだが、「スペランカー(Spelunker)」というのは「アマチュア洞窟探検家」という意味の、れっきとした英語である。
 このことが示すとおり、彼は洞窟探検を生業とするプロではない。普段はうだつのあがらないサラリーマンか何かであり、休日になると嬉々として洞窟にやってきては、人生の片手間に潜るのかもしれない。

 その割には死にすぎだという意見もあるだろうが、この洞窟の構造をよく考えてみて欲しい。自然の構造を利用したダンジョンに財宝が散らばっているという雰囲気ではなく、エレベーター、ロープ、トロッコ、ボート、皿など、明らかに誰かの意図が働いていることが見て取れる。

 そして、単純に何かの遺跡と考えるにも、あまりに現代的なガジェットが朽ち果てずに動作しているのが疑問だ。最終目的は地底ピラミッドであって、これは遺跡だろうと考えて差し支えなかろうが、そこまでの道程は、むしろ鉱山であったところに遺跡が発掘され、そこに向かって潜っている、と考える方が自然である。

 彼はアマチュアであるものの、綿密に設計された洞窟の道程を、重い荷物を運びながら歩んでいる。洞窟探検のプロほどではないにせよ、そこそこの頑強さを持ち合わせているからこそ行える芸当だ。

○この洞窟は致死的に設計されている
 さて、そうであるとすると、複数の疑問が生まれてくる。なぜ、このスペランカー以前に潜った人物(複数人いると思われる)がスペランカーより先に財宝をせしめなかったのか? なぜ、これ見よがしに道の途中に財宝や道具類が落ちているのか?

 これらの疑問点を一気に解決する、もっとも明快な答えがある。この洞窟は、鉱山跡を利用したハイリスク・ハイリターンなアミューズメントパークであって、ダンジョンマスターがスペランカーから入場料を取った上で、スペランカーの挑戦を手ぐすね引いて待ちかまえているのだ。

 こう考えれば、アマチュアの探検家の挑む洞窟がこのように人工的かつ致死的な理由がはっきりする。現時点で財宝はダンジョンマスターの私財であり、スペランカーに持って行かれたくはないのだ。ボクシングの試合中に死んでも相手が殺人罪にならないのと同様、同意の上でこの洞窟に挑戦し、無事生還の暁には財宝を得る権利を高値で買い取ったに違いない。

 そこには『賭博黙示録 カイジ』ばりのやりとりと、巨万の富と生命を秤にかける打算、そして署名捺印のされた同意書の存在があっただろう。その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。
 不屈の闘志と勇気、それに理知。スペランカーは貧弱などではないと言える。

2.スペランカーは死にやすいのか?
 先に述べたごとく、初プレイの最初の1画面で3機失われ1分以内にゲームオーバーになるような作品が「死にやすい」ことそのものに疑いの余地はないだろう。事実死んでいるのだから。

 しかし、そもそも「死にやすい」という言葉はそれじたい2重の意味を持っている。「ゲームとしてプレイ中に残機を失いやすい」という意味(A)と、「スペランカーという作品の世界で、洞窟の中は(我々の住む現実と比べても)主人公が死にやすい」という意味(B)だ。

 上で認めたのはAのみの観点だ。そして、ほとんどの人はAのみをもって「スペランカーは死にやすい」と主張しているだろう。だが、同じくらいBも考慮されるべきではなかろうか。また、Bで「必ずしも死にやすいとは言えない」となれば、AとBを加えた総合的な評価に少なからぬ影響を与えるだろう。

 マシンスペックに制限された演出に囚われず、よく想像力を働かせてほしい。けっして「スペランカーは死にやすい」わけではない。

○明白に死にやすいものは除外
 もっとも、★印を付けたc.〜g.の項目については、普通に死にそうなアクシデントだとして、議論から除外しても異論はないだろう。むしろ、スペランカーでなくともたやすく死ぬに違いない。
 以下、意見の分かれる△印(a.およびb.)と?印(h.〜n.)について述べる。

○この洞窟に「酸素がない」は誤り
 まず、検証しやすいところから検証していこう。「?n.エネルギー切れ」。よくある誤解が「酸素切れ」だが、これの証明は単純なことだ。ほかならぬほ乳類であるコウモリが死なずに生きているのだから、洞窟の中では呼吸ができるにちがいないのである。

 じゃあ「エネルギー」を補給しないでいると死んでしまうのはなぜか? それは、照明やソニックガンのエネルギー源であるバッテリーの、電池切れであると考えられる。つまり、これで死ぬのは当然だ。明かりが無ければ帰り着けないし、途中でゆうれいに襲われた際の対抗手段がないのだから。  その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「△a.落とし穴」は「スパイク」である
 この洞窟にダンジョンマスターがいるらしい事は先に述べた。とすれば、落とし穴はただの穴ではなく槍ぶすまになっており、落ちれば致死は免れまい。背の深さだからといってあなどれないのは自明である。その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「△b.Vの字の裂け目」は「流砂」である
 こう考えるとわかりやすい。理由は、他の岩盤や裂け目の表面がざらざらでこぼこしているのに対して、V字型の裂け目だけはなめらかな曲面であることが挙げられる。
 この表面は柔らかい砂なのだ。その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

 この谷間に上手くジャンプして着地し、それからゆっくり降りていくと、首まで降りたところで死亡となる。このことが「膝下の高さから落ちて死ぬ」という誤解を生んでいる原因にもなっているのだが、場合によっては「落下せずに」死亡することもある。つまり、原因は落下の衝撃ではなく、別の所にあることを示している。
 じつは泥炭池や流砂といった場所に腰まで埋まると、一人では抜けられずロープ等で引き上げてもらう必要がある。そして、スペランカーは常に1人である。
 もうおわかりだろうが、スペランカーは流砂から抜け出せなくなって死んでいるのだ。背の深さ程度だからといってあなどれない のは自明であろう。


○単位換算の導入
 これ以降の議論は、「狭い」といった主観が関わってくるだけでなく、スペランカー自身と洞窟のサイズを無視できなくなる。そのため、下記単位換算の導入を提唱する。

 1ドット=11cm

 この換算により、様々なことがクリアになって見えてくる。

●身長:16ドット
 この値は、スペランカー本人の身長から割り出した。すなわち、11cm x 16ドット = 176cmである。地域差と個人差こそあれ、170〜180cm程度が欧米人の平均的な身長であるから、多少の誤差があるかもしれないが、ヘルメットとヘッドライトを足してこのくらい、と想定するのが適切だろうと思われる。

●洞窟の全長:2400ドット
 16 x 150 = 2400ドットと計算した。全長264mの巨大洞穴だ。

●洞窟の幅:880ドット
 96.8mとなる。

○「☆h.身長程度の高さや狭い隙間」の真実
 さきほど導入した単位を用いると、こうなる。

●エレベーターと段の間:幅5ドット→55cm
 55cmといえば、成人男性の腕の長さに少し足りないくらいだ。
 よく想像力を働かせて欲しい。この幅をジャンプせず歩いて渡ろうなどと考える愚か者は、間違いなく奈落にまっ逆さまだろう。それに、ジャンプの踏切や着地は揺れるエレベーター上で行わねばならないから、簡単に飛び越えられると油断していたら滑って落ちてしまいかねない。スペランカーのように。
 そして、偶然引っかかったり、体ごと取り付いてよじ登るには少々広すぎる。その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

●標準的な棚間:
高さ32ドット→352cm
 身長の2倍だが、落下先はごつごつした岩肌である。さらに重い荷物を持っている。じゅうぶん人が死にうる高さではなかろうか?

○「☆i.坂道でジャンプ」の愚
 まずは図3をご覧いただきたい。

図3 スペランカー死のジャンプ
図3 スペランカー死のジャンプ

●坂で死のジャンプ:
 つま先間 高さ17ドット 幅35ドット
 →高さ187cm、距離385cm

 忘れてはいけないのは、これは露岩剥き出しの斜面であり、かつ、真っ暗闇でヘルメットに固定したヘッドライトのみの明かりを頼りに潜っている状態である、ということだ。
 さらには、この斜面、実はけっこう急坂である。計算してみよう。角度を出すには、高さを距離で割ったものでアークタンジェントを取ればよい。

17 / 35 = 0.4857
arctan 0.4857 = 25.9(度)

 30°近い斜面とはいえ「たかだか26°」と考える人もいるかと思う。しかし、そんなことは決してない。なにせ、急坂で有名な横浜の聖坂で11.5°、神戸の異人館坂で8°、東京タワーで4°と言えば分かるだろうか。
 かたや、ほとんど先の見えない洞窟で、ごつごつした岩肌が突き出ている不安定な足場の26°である。4m近くも向こうにジャンプして、まともに着地できるほうが超人技というものである。

 さらに、飛距離を計算してみよう。三角形の2辺が分かっているのだから、三平方の定理を用いて、飛距離をxと置くと、

x2 = 352 + 172 = 1514
x ≒ 38.9(ドット) = 427.9(cm)

 これでもまだあなたは「坂道でジャンプしただけで死ぬ」と言えるだろうか? ここまで来ると、死なない方が奇跡的である。
 よく「身長の高さで死ぬ」と揶揄されるが、これは的を外している。つまり、主人公はこの高さ以下を激しく転がり落ち、血だるまになって死んでいるのだ。その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「☆j.間欠泉上の皿が下りの時にジャンプ」
 そろそろ読者にもパターンが飲み込めてきたかと思う。

●皿の下りでジャンプ:24〜28ドット
 これは264cm〜308cmに相当する。不安定な間欠泉に浮かべた皿の上でこんな高さのジャンプをして、無事で済むはずがないではないか。
 じゃあ死なない上りはどうなのかというと、こちらはジャンプの頂点で7ドット程度であった。ただし、この直後に皿は持ち上がってきていることから、上昇時のジャンプは33〜44cm程度にとどまると思われる。

 もちろん、上記のような表現は画面から伺うことはできないが、その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「☆k.ゆうれいに接触」
 ゆうれいの致死性については、本論でも明らかにすることはできなかった。しかし、

●幽霊:体長16ドット、体幅9ドット 全長15ドット
 ほとんどスペランカーと同じサイズ、いわずもがな、身長並みの怪物である。相当の武器なしで戦えるはずが無いだろう。
 その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「☆l.コウモリのフンに接触」
 スペランカーファンの読者諸兄にとって、もっとも納得のいかない死に方がこれであろう。しかし、これにもちゃんとした根拠がある。

●コウモリのフン:1ドット×2
 なんだ、たったの1ドットか、と侮るなかれ。直径11cm大の馬糞を超えたフンのカタマリが、2個組で落ちてくるのだ。ハンドボール並みである。
 しかも設定によると、これにも毒があるらしい。そうとなれば、死んでもまったくおかしくないではないか。
 その演出が省略されたのは、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

○「☆m.フラッシュの残骸」は危険物
 フラッシュごときで死ぬのはヘンだ、と思うかもしれない。しかし、このフラッシュはスペランカー自身が持ち込んだアイテムでないのである。
 それに、グラフィックを検証してみると、もう一つの理由が判明する。

●フラッシュの光線:直径16ドット
 スペランカーの身長と同じであり、光線は黄色と赤のスペクトルで球形に放射されながら、1〜数秒程度で地面に降りてくる。フラッシュと言えば普通、マグネシウムが燃焼する際の白色光を連想するが、スペランカーのフラッシュには色が付いているのだ。

 黄色と赤い色をしている危険物で類似のものというと、

1.花火
2.パイナップルとチェリー爆弾
3.ドナルド・マクドナルド氏

どれもじゅうぶん危険だが、スペランカーが魔法ファンタジーでもドナルドマジックでもない以上、いちばん可能性が高いのは花火だ。黄色はナトリウム原子、赤色はストロンチウム化合物の炎色反応であると考えられる。

 このフラッシュが第3者によって持ち込まれたアイテムである事も考慮すると、スペランカーの身長ほども光を放つ威力を持った炸薬である、と考えざるを得ない。火が消える前に近づいて無事でいられるわけがないことは、言うまでもない。

 その演出が省略されたのは、とにかく、単にマシンスペック上の理由に過ぎない。

結論
 以上で述べたように、我らがスペランカー先生は「常人」と大差がない。現実で死んでもおかしくないシチュエーションで死んでいるし、それ以外でぽっくり死んだりはしない。
 取り立てて「貧弱」だの「死にやすい」だの「和室でどうやったら死にそうになるの?」などというのは、操作を会得できなかった未熟者の言いがかりに近いものがある。だいいち、我々がプレイしていたらそんなに死なないのである。

 ゆえに「洞窟に行って、スペランカーのマネをできるものならしてみろ、おまえのかーちゃんでーべそ」と小学生のころの気持ちに戻った台詞を吐いて、本論の締めくくりとする。

 オチがないじゃないか、と思う向きもあるかもしれないが、本論の検証のために、ゲーム中さんざん落とし穴やら水脈やらエレベーターの隙間やらに落ちまくっており、これ以上ことさらに落とさなくても、じゅうぶん『オチ』ているではないか、と思うのである。






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