呪いの増毛法

渡辺ヤスヒロ



 呪いの人形として有名な髪の伸びる女の子の人形があります。一般的に菊人形と言われているもので、かなり有名ですので誰もがその存在を知っていると思います。この人形はこの世に唯一つの特異な事象と言うわけではなく、日本各地にいくつかあるそうです。そしてその現象も、いつの間にか髪の毛が伸びていたと言う同じものでした。
 これは、呪いの発動として髪が伸びると言う効果があると言えるのではないでしょうか。つまり、何らかの恨みが人形に影響を及ぼし、髪の毛を伸ばすと言う現象を起こしているのです。

 さて、世の中には髪が生えなくて困っている人や、抜けてしまって困っている人も多くいると思います。先程の髪が伸びると言う現象は、今までにない新たな原因によるものです。これは髪に対する悩みを持つ、そんな人達に朗報なのではないでしょうか。
つまり、呪われればいいのです。ふさふさです。どんどん生えて伸びてきます。恨まれることをすればするほど、呪われ具合も激しくなり、より多く生えたり伸びたりするのではないでしょうか。もう、人の嫌がることしまくりで、恨まれまくれば良いわけなのです。
 でも、これはちょっと。呪われるほどのことを髪の薄い人が一斉に始めたりする社会ってのはどうなんでしょうか。なんだか、すごく嫌なんですけど。

 ところが調査を進めている内に意外なことが判明しました。
髪の毛の伸びる菊人形は実は呪われていなかったのです。
今までの論理展開が根底から覆される事になりました。呪いによって髪が伸びるわけではなかった。この事実はある意味、新しい光明を見出していた髪に問題のある人に冷水を浴びせ、髪をむしる行為となりました。
ではどうして伸びていたのか?
呪い以外のどんな力がそこに働いたと言うのでしょうか?

さらなる調査の結果、これらの人形は持ち主である少女によって非常に大切にされていたとのことが分かりました。少女に大切にされる、これがどうもキーワードのようです。なぜ少女なのかと言うと、菊人形を貰って喜んだりするのはやはり通常は女の子だから、持ち主はほぼ100%女の子と言えます。確かにコレクターの様な人が持ち主になることも有り得ますが、人形を感情を込めて大切に扱うと言うことではやはり女の子が一番なのではないでしょうか。いや、確かに蒐集家も大切にはするんですけどね。やはりほら、その人形だけをひたすら可愛がったりするわけじゃないし。
そして、悲しいかな持ち主の少女が幼くして死んでしまった場合に髪が伸びると言う現象が起きていたようなのです。
つまり、幼く病弱な薄幸の少女の儚い愛情を勝ち得ることが出来れば生涯薄髪の悩みから開放されると考えることができるわけです。

 良く考えてみると別に少女が死ななくても良いような気がしますが、これはおそらく残留思念として同じ『思い』がそのまま残り続けているだけと考えることができます。だから元気な少女であってもその愛情によっては一時的であれ増毛の効果を得ることができそうです。

髪の秘密は少女の愛情にあったのです。

 なるほど。髪の薄い中年男が病弱な少女を追い回したりするのはそのせいなんですね。
彼らは決してやましい気持ちではありませんので、どうか暖かい目で見守ってあげてください。

髪の伸びる呪いがかかった人形さえあれば…
髪の伸びる呪いがかかった人形さえあれば…



参考文献
 万念寺のお菊人形:http://www.ms11.or.jp/06ksaw/b020-2.html(編注:論文集発行時のリンク先消失のため変更しました。)



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