企業スポーツの活用法

加藤邦道



 長引く不況のあおりを受けて、企業スポーツも受難の時代を迎えている。プロ化されていないバレー部や陸上部などの解散・廃部が行なわれ、部員も他の社員と同様にリストラの憂き目に遭っているのが現状である。
 企業スポーツというのは日本独特のシステムだと言われる。終身雇用を原則として、一生同じ会社で働くことになる社員同士の親睦を深めることや、普段の運動不足を解消することを目的として野球やバレーなどの部が発足したのがそもそもの始まりである。そういった部があちこちの企業で生まれれば、当然のことながらチーム間の交流も生まれ、対抗戦なども頻繁に行なわれるようになる。そして実際に地区大会から全国大会に至るまで多くの競技会が催されてきたのである。
 さすがに全国大会優勝ともなれば、そのチームの名声は日本中に(少なくともそのスポーツの関係者には)とどろくことになる。企業側もこの点に着目、部に多額の予算を認めてそれを専門にする職員を雇うようになった。例えば野球部ならいいピッチャーをスカウトし、一方、それで入社した彼は給料をもらって毎日練習することを仕事とし、試合に勝つという使命を負うのである。
 彼のやっていることはプロ野球選手と何ら変わりはない。しかし彼はプロではない。企業の正社員であり、肩書きは総務部主任だったりする。どんなに活躍したところで給料が何倍にも跳ね上がることもなければ、出世の道が確保されるわけでもない。その代わり活躍できなくても解雇されることはなく、野球を引退した後も企業に残って他の社員と同様に働くことができて、つまりは安定した人生が約束されているのだ。

 冒頭にも書いたように、その企業スポーツが危機に直面している。企業の財政難から、本業とは関係のないスポーツに従事する社員をまかなう余裕などなくなってきたのである。
 企業スポーツが興った初期のころであれば、他の企業に試合で勝つことでPRにもなるし社員のやる気を喚起することもできた。また、同じ会社で働く者が頑張っているという励みにもなっていただろう。しかし今日では企業スポーツにそのような力はない。
 試合に勝ち続けられるようなチームを持つには莫大な金がかかり、それを維持できるのは既に名前が知られているような大企業だけである。いまさらチームが活躍することによって得られる宣伝効果は低いと言わざるを得ない。そしてそこで活躍する選手たちが専門化したことにより、一般の社員からは遠い存在となってしまった。自分の勤める会社の名前を持ったチームが活躍したからといって、普段の業務に対するモチベーションが上がるわけでもない。
 このように企業にとってのメリットがなくなったのならば、企業スポーツが縮小されていくのも仕方がない。お荷物でしかない部は廃止されるのが時代の流れというものである。

 いや、ちょっと待ってほしい。企業スポーツにはまだまだ果たすべき役割があるのではないか? 確かに今まで考えられてきたようなメリットはなくなったかもしれない。しかし、要するに企業の営利活動を支えるための役割を示すことができればいいのではないだろうか。
 企業スポーツの現代的な活用法として「接待」が考えられる。ゴルフがいい例で、取引先企業の重役を招き、適当なハンデを与えて一緒にコースを回る。1ラウンドも回れば2〜3打はいいショットも出るので、そこを逃さず「ナイスショット」を連発する。自社の若い連中には力をセーブしてもらって、常に「いい勝負」となるようにする。最終的には1打差ぐらいで優勝をその重役に持っていかれるようなシナリオにしておけば完璧である。ゴルフのあとの懇親会では重役の優勝と、たまたま出た「ナイスショット」を誉めることに終始すればよい。もちろん費用は全額こちら持ちである。
 こうした接待を行なうことによって企業の社員同士の親睦が深まり、今後の取引も円滑に行なわれるという効果が期待できる。そうであれば既存の部を活用しない手はない。ここにきて企業スポーツは見事に復活を遂げることになるだろう。
 例えば接待ラグビー。一進一退を繰り返すスクラムの中からボールが出され、相手企業の重役がボールを持って走り出したときがチャンスである。鍛えられたラグビー部員たちは次々とタックルを試みるが、いつも間一髪のところでその重役にすり抜けられてしまう。重役は自陣から60メートル以上を独走し、襲い掛かるディフェンダーをかわしながらゴール中央に劇的なトライを成功させるのだ。実際にそんなことができたら重役自身が一番感動するに違いない。
 相手企業に勝たせるのは当然だが、それよりもみんなで汗をかくことの方が本質的に重要だ。なぜならノーサイドのあとのビールが格別なものとなるからである。懇親会でも話が弾まないわけがない。うまくすればもつれていた交渉もまとまるだろう。
 企業から廃部を宣告されたチームがあるならば、もう躊躇している暇はない。これからの企業スポーツは接待を中心に考えるべきなのである。


紳士のスポーツならば、接待にも向いているはず
紳士のスポーツならば、接待にも向いているはず

参考文献
インターネットの検索サイトで「接待ラグビー」を検索したら5件も引っかかった。そんな中でも接待スポーツに関して深いところまで考察が加えられている 稲本喜則『ひぐらし日記』2001年9月24日「接待××」 http://www006.upp.so-net.ne.jp/inamoto/higurashi0109.html#010924(編註:リンク先を論文掲載時から変更しました。) がお勧め。一方、企業スポーツの衰退をまじめに考えたい人には mmm project 『スポーツ話の種』VOL.24「企業スポーツの行方」 http://www.page.sannet.ne.jp/tjysekita/backno-sh4.htm#vol.24
あたりを。戦後日本のスポーツの変遷に関しては次の論文。 辰野香織「スポーツとコマーシャリズム」 http://gyosei.mine.utsunomiya-u.ac.jp/1999sotsuron/kaori.html(編註:リンク先を論文掲載時から変更しました。)



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