上野均
ラテン系、というと、私たちが思い浮かべる人格は、情熱的、派手好き、欲望に忠実、気まぐれ、ちょっとだらしない、約束を守らなそう、等等である。断っておくが、ここで論じる「ラテン系」というニホン語の持つイメージは、「ラテン民族」とは必ずしも一致しない。キケロやセネカ、ガリレオやボルヘスもラテン系のはずだが、もっぱらドン・ファン、ドン・キホーテ、マラドーナやフリオ・イグレシアスばかりをクローズアップしたイメージ。それがニホンにおける「ラテン系」だ。
では、何を根拠に私たちニホン人はかような偏見を抱くに至ったのだろうか。私見によれば、その元凶は一体の人形だ。目先の欲望に弱く、嘘はつくわ、すぐ自慢するわ、失敗するとひどく落ち込むくせに、次の瞬間はもうおだてに乗って有頂天、どんな酷い目に遭ってもちっとも成長しない。そう、ピノキオだ。飽きることなく繰り返される彼の愚行を読むたびに、幼い私たちの脳髄に、「ラテン系」に対する軽侮の念が深く植えつけられてしまったに違いない。
と、ここまで論じてきて、私はニホンが直面している危機的状況に気付いてしまった。よその国の心配をしている場合ではない、こうしている間にもニホンはアジアを中心とする諸外国に、ピノキオに匹敵するほどの破壊的人格を輸出し続けているのだ。
彼は依頼心が極度に強く、強者の恫喝には容易に屈するのだが、後々までそのことを恨みに思う。機械に頼らなければ何も出来ないくせに、妙に手先が器用で、テクノロジーを駆使していばり散らす。容姿の最大の特徴はメガネ。あまりにも的確なニホン人のネガティブ・イメージがここにある。さらに、彼が少女の裸に強い関心を持っている点を指摘され、「これぞニホン人の買春ツアーの原型」と非難されるおそれすらある。
日本政府は、日本人のイメージをこれ以上悪化させないために、『ドラえもん』の輸出規制を真剣に検討する段階に来ているのではないだろうか。
ラテン系の人形と、日本人の象徴は世界に輸出され続ける
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