超局地戦に備えろ

穂滝薫理




 迷彩服というものがある。これはもともと、第二次世界大戦の時に、ジャングルでの戦闘用に考え出されたものだ。兵士を背景に溶け込ませ、敵に見つかりにくくする効果をもつ。単純に戦闘時に兵士の位置をわかりにくくするだけでなく、偵察など隠密行動時にもこちらの動きを察知されにくくする。現代では、行動の場所に合わせ、ジャングル用の迷彩のほかに、市街地戦用の迷彩、そして砂漠戦用の迷彩がある。
 ところで、近代戦争は“情報戦”だと言われる。情報戦を制した者が戦いを制すのである。レーダー衛星などのハイテク機器や、通信の傍受と暗号の解読などを駆使して情報が集められるのであるが、より重要なのは実際に敵地へ乗り込んでのスパイ活動である。いかに敵に見つからずに敵地へ侵入するか、そして情報を味方にもたらすかがカギとなっている。
 また、核兵器や大陸弾道ミサイルの開発によって、兵士がいらなくなったかと言えばそんなことはない。これらの武器は、全面核戦争すなわち人類滅亡の危険性をはらんでいるため、実際には使用することができない。最近ではインターネットを使った攻撃も考えられているが、実はこれもたいしたことはできない。敵を混乱させたり不安にさせるなど、多少の戦闘支援はできるだろうが、あくまで支援であって、決定打にはなりえない。結局、兵士個人が敵の兵士個人をいかに多く殺すかもしくは戦闘不能にさせるか、なのだ。もう一度言うが、大規模な戦闘は危険だ。さらに大規模な戦争に発展する可能性があるし、民間人を巻き込む可能性も高い。また、費用も国家予算なみになるだろう。だから、これからの戦争に求められているのは、兵士個人の能力だ。個人で行動し最大限の効果を発揮する、そんな兵士が求められているのである。わかりやすい例を挙げると、単身敵の本拠地に乗り込み、指導者を暗殺することなどである。
 このように、隠密行動と、個人対個人の戦闘(超局地戦)の時代に、今の迷彩服では対応できないのではないだろうか。早急に戦闘地域に応じた迷彩服のバリエーションを増やすべきである。
 たとえば、サバンナでのスパイ活動はどうするつもりか。既成の、ジャングルや砂漠や都市に特化した迷彩服ではかえって目立つことになりかねない。そこで、提案したいのが、ヒョウ柄の迷彩服だ。動物は自然の迷彩服を着ていると言われる。それをいただくのだ。もちろん、耳やしっぽがあれば完璧だ。また、シマウマ柄の迷彩服も有効だろう。敵が何か動いているものを発見したとしても、それはシマウマに過ぎないのだから。  しかし、それだけでは、超局地戦に対応できているとは言えない。単にサバンナというだけでなく、どこの国のどんな場所で行動するかによって、細かく対応していかなくてはならない。
 たとえば、オランダのチュウリップ畑で戦闘が行なわれるときには、当然チュウリップ柄の迷彩服が必要だ。あるいは、皇居に忍び込むには、石組みの城壁模様の迷彩服が有効だろう。
 当然ながら、季節によっても迷彩の模様は使い分けなくてはならない。たとえば、花見会場での戦闘があった場合どうするのか。ジャングル迷彩では、自分の居場所を教えて歩くようなものだ。そう、花吹雪模様の迷彩服を着ていけば、誰にも気づかれることなく行動できるのだ。  今のところ、この重要な事実に気が付いている国や軍隊はいない。自衛隊よ、チャンスだ。超局地戦に備えろ。原宿ではコギャル迷彩を、クリスマスにはサンタの迷彩服を、お正月にはおめでたい迷彩服を着て戦え!

オランダでの迷彩服はもちろんチューリップ柄だ


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