ちょー除夜の鐘論

藤野竜樹




 今年ももう暮れてしまった。これを読者諸氏が読んでいる頃は、もう大晦日が近いだろうと思う。大晦日といえば、108回突くのは除夜の鐘だ。ちなみに、杵で搗くのは餅だ。いやそれは別にどうでもよくて、とにかく除夜の鐘だが、田舎のお寺などではこの鐘突きを一般に開放しているところもあるようで、筆者の知り合いもそうしたお寺で鐘を突いたことを自慢して、「一つ煩悩が減った。」などと無邪気に喜んでいた。
 欲望が人間に積極性を与える根拠となる、と普段から考えている筆者からすると、煩悩がなくなる事がすべて肯定的に捉えられることに必ずしも賛同できないのだが、煩悩を消す手段としての鐘という状況は興味をそそられたので、本稿を執筆することにした。

 上記知人、紹介した話のほかに、順番が来るまで時間が掛かってとても退屈だったとも言っていた。寺側が考えたこのアイデアも、元々は檀家の人達に対するサービスだろうから、順番の早い組はそういう人達に優先的に回されてしまい、一般参加者である知人はかなり後のほうになってしまったということのようである。一回突くのに一分くらいかかるから、最後の方だと二時間近く待たなくてはいけない。正月気分で目出度いかもしれないが、目出度さで厳冬の寒さを乗り切れるわけでもない。ここは一つ、こうした除夜の鐘における待ち時間というものを無くす方法を考えてみようではないか。
 まず考えたのが、たくさんの鐘を並列において、何人もゴンゴンと同時に突くというアイデア。この方法は大勢さばけるので非常に効率がいいのだが、この行事が年一回しかないことを鑑みると、これだけのために複数の鐘を鋳造しなければならないというのはコストが合わない気がする。いや実際合わないし、大体やかましい。
これは残念と次に考えたのが、鐘だと金がかかるから、じゃあ突き棒のほうを増やそうという発想から考えたのが、除夜の鐘多人数打ち込みというアイデア。これは鐘を多方向から一度に鐘突き棒で突くというものである。これなら棒だけで済むから鐘の複数鋳造に比べたら遥かにコスト安でお徳、しかも時間短縮の効果も格段にあがること請け合いだ。ただ、全員の打つ位置を均等に分け、しかも全員の息を神業程度に合わせる必要があるだろう。でないとある方向の人が跳ね飛ばされたりするわけで、ちょっと危ない。いやかなり危ないが、実現は決して不可能ではない。(レーザ核融合なんてこの原理で装置が出来てる。)よし、これを推奨しよう。
 それにしても、ここでふと疑問が湧く。このように多方向から鐘を突いた場合、鐘からは一体どういう音が響くのだろうか。
 こういう未知の問題に対処する時は基本から考えるのが原則だ、まず普通に打つときの鐘の形状を想定しよう。一方向から突かれた鐘はまずその方向にひしゃげ、ついで反発してその逆方向にはねるから、鐘の形状は楕円がたてになったり横になったりを繰り返すように見えるだろう。これは定在波と呼ばれ、鐘の円周の半分の波長を持つ。これがその鐘に固有の波長であり、この時の振動数が、鐘の音の高さ(周波数)と言うことになる。例えば、海の波を想定すると、波長は今の波よりもちょっと長い波とか、ちょっと短い波とかが作り出せるのだが、鐘は決まった形状を繰り返して波を作るためにそう簡単にはいかず、その波は円周の整数分の一のものしか存在できない。だから例えば、四方向からいっぺんに打つと、定在波は円周の1/4になる。(二方向、つまり両側から打っただけでは定在波は変わらないことに注意。)で、この時の周波数は倍になっており、ということは1オクターブ高い音が鳴る事が想像できるのである。
 となれば、これを八方向、十六方向と、どんどん増やしていくとどういうことになるか。その度に1オクターブ、また1オクターブと、音は高くなるのである。じゃぁということで、そのように倍倍で考えていくと、108方向からいっぺんに突くことになった場合、鐘はいつも出している音に比して6オクターブに近い高音を響かせることになる。
 これは面白いことになる。何故ならもしも鐘の発する元々の音程が高かった場合、108方向突きをした場合には可聴周波数を越えてしまうことすら想像されるからだ。そんな時は一体どんな音が響くのだろうか。
 除夜の鐘が煩悩を消し去るための音ならば、108の煩悩を一回で消し去るその音は文字通り鐘の常識を凌駕する音であり、我々の胸に重く...軽く響く音となるに違いない。そう。それはゴーンという音を越えた次世代の音、ゴーンという音の“次に来る音”とみなす事が出来るのであり、そうであるならその音は、
  いっきゅうさーん!!
と聴こえるのである。  はーい! を入れてもいいよ (^○^)

同時に反対方向から叩く
他方向から除夜の鐘を打つ場合には、同時に反対方向から叩かなくてはならない。これで人数を増やすと……




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