私の日常における漫画の占める割合について |
杉山晃一
1.コミック・雑誌の注文リストについて 仕事の関係で,ここ数年で何度か引越しを経験した.私が引越してからまず行なうことは,隣近所にそばを配って回ることではない.行きつけの書店を開拓することなのである.品揃えがそこそこあり,且つ融通のきく書店を見つけるのは,意外と難しいものである.だが,気が付いたら,そういう店には結構鼻が利くようになっていた. 行きつけの書店が見つかったら,雑誌やコミックの毎月のまとめ買いの交渉をする.雑誌の発売日は,毎月とか毎週とか,大体決まっているので,それほど難しい話ではない.問題はコミックである.毎月何百種類というコミック(書籍も含む)がわんさか発売されている昨今,自分の欲しい本を如何にピックアップするかは極めて重要なことである.色々試した結果,書店に配布されている新刊リストが一番確実であるという結論に達した.なにしろ,書店はこれを元にして,毎月の仕入数を決めているのであるから,最も信頼できる情報源である.私はこの新刊リストをコピーさせてもらい,必要な分をピックアップするようにしている.これらの情報を元に,コミックと雑誌に関する毎月の注文リストを作るのである.作成した注文リストを書店に渡しておけば,あとは都合の良い時に買いに行けば良い.この結果,発売日に本を買い忘れたりして,何件も店をはしごしなくて済む. 注文リストを作ることのメリットは,買い忘れの防止はもとより,本に対する毎月の出費を把握できることにある.書店側からすれば,毎月ある程度まとまった量の売上が確保できるわけで,重宝されてしかるべきである.細かいことを言う客だと疎ましがるような心の狭い店なら,はなから利用しなければ良いのである.買う側からすれば,わざわざリストにして注文しているわけで,未入荷があった場合には指摘しやすい.何よりも,店に入っただけで何も言わなくても欲しい本が出てくるのは,ある種の優越感に浸ることができる.敢えてデメリットをあげるならば,注文リストを作るために半日近く時間を要することである.しかし,上にあげた数々の利点を考えれば,これはしょうがないかと割り切ることもできる. 気が付いたら,毎月欠かさず,4年間もこんなリストを作成していた.効率を考えて,電子的に作っていたこともあり,意図的ではないにしろ,解析するにはもってこいの素材となった.これを元に,私の日常生活における漫画の占める割合を定量的に評価できるものと考えられる. 2.調査対象サンプルについて 調査に用いたサンプルは,過去4年間(1997年〜2000年)に,同じ書店で注文したコミック・雑誌である.直接的な情報源としては,前述した注文リストを用いている.但し,リストに記載せずに衝動的に買ってしまった本,リストにしたが結局発売されなかった本に関しては,すでに把握しきれないため,調査対象外とした.また,注文リストに記載している関係から,漫画以外の雑誌も若干含むことにした. 3.解析内容について 解析内容は以下の通りである. (1)月別投資額 (2)月別購入冊数 (3)出版社別投資額 (4)作者別投資額 それぞれの結果について,以下に詳細を述べることにする.また,特に断らない限り,「単行本」と記述しているのはコミックのことを指すものとする. 4.解析結果 (1)月別投資額 4年間の投資額の合計は以下の通りである. ●雑誌 :187750円 ●単行本:222589円 以上の結果から,4年間で¥40万以上も漫画や雑誌に投資していたことが分かる.月に換算すれば,¥8000程度ということになる.月単位で見ると,それほどではないと感じるのは,どこぞの通販番組と同じで,分割払いのマジックである. ところで,雑誌の大半は読んだら捨てているので,月に¥4000近くを捨てていることなる.但し,捨てる前に気に入った表紙や,カラーページ,単行本になりにくそうな読切り作品などはスクラップしているので,十分に元は取っていると考えている. (2)月別購入冊数 4年間に購入した冊数の合計は以下の通り. ●雑誌 :576冊 ●単行本:397冊 以上の結果から,4年間で1000冊近くも漫画や雑誌を買っていたことが分かる.月に換算すれば,20冊程度ということになる.この場合,月単位で見ても半端ではない量であり,ごまかしの余地はない.そんなに本を買って,一体何処に収納しているのかとよく聞かれる.雑誌については前述の通り,スクラップという圧縮処理を施しているため,なんとかなっている.しかし,単行本は溜まる一方である.しかも,ここ最近は,読んでいる時間もなくて,買うことが目的になりつつある.音楽CDとかPCのデータなどもコンスタントに増加しているため,この先どうなるか非常に不安である. (3)出版社別投資額 4年間の上位ランキングは以下の通りである. ●雑誌: 1位:小学館 66720円 2位:少年画報社 45250円 3位:講談社 26000円 4位:三才ブックス 18480円 5位:朝日ソノラマ 15300円 ●単行本: 1位:小学館 68487円 2位:講談社 45501円 3位:集英社 23097円 4位:角川書店 12170円 5位:少年画報社 8440円 以上の結果から,4年間でトップに位置するのは小学館であり,コミックと雑誌併せて¥13万近くを投資していたことになる.私の場合,コミックに関しては,小学館,講談社,集英社の本を重視していることが分かる.雑誌に関しては,小学館,少年画報社,講談社の本を重視していることが分かる.少年画報社については,コミックと雑誌とで相関が取れていない結果となっている.これは,雑誌で欠かさず読んではいるが,単行本として買うほど思い入れのある作品に恵まれていないという見方ができる. 現在購入している雑誌の内訳は以下の通りである. ・小学館:少年サンデー(週刊,月刊,別冊) ・少年画報社:ヤングキング(本誌,別冊等) ・講談社:アフタヌーン(本誌,別冊) ・朝日ソノラマ:宇宙船(SFの季刊誌) ・三才ブックス:某ゲーム雑誌(ファミ通と双璧をなすあの雑誌) 朝日ソノラマと三才ブックスは漫画雑誌ではないが,上位にランクされている.私自身のかなり偏った知識は主にこれらの本がソースになっている.アニメ系の雑誌を一切買っていないあたり,私なりのポリシーが伺える.私が決してアニメオタクでないことは,このデータが如実に物語っていると言えよう.誰も信用してくれないけどね.(注:アイドルオタクでもない.決してない.) (4)作者別投資額 4年間の上位ランキングは以下の通りである. 1位:浦沢直樹 12316円 2位:あさりよしとお 12156円 3位:垣野内成美 11677円 4位:冬目景 10004円 5位:あだち充 9928円 なんとなく惰性で買っている作家が上位ランキングの大半を占める結果となった.つまりこの結果は,作家が出版社を通じてどの程度作品を世に発表しているかによって決まってくることになる.ある意味,出版社の戦略に翻弄されていると言えなくもない. もとより,作家の製作・発表のスタイルとかペースには個人差があるので,初出作品/再録作品の区別は特にしていない.あまり細かいことを言ってもしょうがないというのもあるし,新刊で本を購入している手前,気に入った作家の作品が出るということはその作家への投資に他ならないためである.要はベンチャービジネスと同じ理屈である.ここ最近,新刊のコミックがすぐに中古市場に流れるシステムが横行しているのが実状である.身の危険を感じた作家達が団体を作って抗議活動をしているが,これは至極当然のことである.私はこの活動に全面的に賛成である.作家がクオリティの向上を目指すのはは勿論のこと,それを支援するのは読者即ち購入する側の最低限のモラルであると確信しているからである. とは言え,上述のランキングの下位には,私が敬愛している作家が目白押しである.吾妻ひでお氏を始めとして,新田真子氏,伊藤伸平氏,伊藤明弘氏,江口寿史氏,鶴田謙二氏,三浦建太郎氏,安永航一郎氏,亜月裕氏,岡崎京子氏,目白花子氏,etc...これらの作家は,単行本として世に出てくることが極めて少ないのである.つまり,穿った見方をすれば,作家の活動形態や,出版社の意向によって,市場が大きく変動するので,個人の嗜好情報との食い違いが発生するのが現実なのである.漫画に限ったことではないが,よく,「あなたへおすすめの新作リスト」などというダイレクトメイルが送られてくるが,所詮はこんな状況なので,本当に欲しい情報は自分で探すしかないのである. ここ数年の間に,多くの作家は雑誌よりもコミケ(コミックマーケット)へと,創作活動の場をシフトさせている.これは,出版社の意向とか規制などにとらわれず,自由な作品を発表できるという意味から,至極当然の傾向であると言える.しかしこの傾向は,漫画雑誌の空洞化や低俗化を引き起こす要因となった.実際,ひと頃は乱立していた漫画雑誌が,不況とあいまって出版社ごとこの世から消える例も少なくない.くだらない低俗な雑誌が淘汰されていくのは良いとして,素質のある作家がアンダーグラウンドな世界に埋没してしまうのは心もとないことである. 5.結論 今回の調査から,以下のように結論づけられる. (1)注文リストを作って本を買うと,取引が円滑になり,優越感に浸ることができる. (2)漫画を大量に買いつづけることは,物事を分類し,整理する力がつく. (3)私の生活において漫画の占める割合は,金額で換算すれば年間¥10万程度である. (4)私は小学館の売上に対して多大なる貢献をしている. (5)嗜好情報は市場動向によって希薄化してしまう. (6)コミックは新刊で買うのが結果的に作家を育てることになる. (7)アンダーグラウンドにシフトしつつある現在の漫画業界の先行きが心配である. |