高橋英明
0:序論
ヤフーの競売にタイムマシンが登場した※。
当方もタイムマシンの開発を試みた経緯があるが、良心的配慮から断念せざるを得なかった事を踏まえ、実現にこぎ着けた制作者の努力と図太さには驚愕せずには居れない。
斯様な経緯を持つ筆者にとって、先の競売でタイムマシンの動作原理が隠されていたことは妥当に思う。と、いうのも、(筆者のモデルと同一である保証はないが)おそらくタイムマシンは非常に苦痛を伴う装置だからである。
老婆心ながら、無思慮な読者諸兄がうっかりタイムマシンを発明したり、まさかとは思うが乗り込んじゃって、非道い目に遭ったりするかもしれない。本論でタイムマシン運用の恐怖をお伝えし、その様な不幸を予防したく思う所存である。
ドラいもん※のタイムマシンがもつ欺瞞点として、空間の隔絶が挙げられる。つまり、「どこでも扉」を兼ねている点である。タイムマシンの実現に於いて最初の障害となるのは、因果律の壁※である。
タイムマシン実現に於いて、唯一とりうる手段は、因果律の壁を壊すのではなく、避ける※のである。
1:因果律
映画を納めたビデオテープと主人公を想像していただきたい。主人公は、未来を知らないが為に、主観的には不確実な運命※を切り開いているのだが、客体の我々が何度見直そうと映画の結末は不変※だ。
しかし、過去と未来は連続しているのだから、実は未来も過去を束縛しているのである。タイムマシンも、未来からの束縛の一環としてのみ機能させることにより、因果律の壁を回避(因果律を遵守)することが可能だ。つまり、瞬間移動を避け、連続した存在として目的地まで到達する。
具体的には、一瞬で時間移行するのではなく、逆の時間を向きのみ逆向きに移動していくのである。1日遡るには1日かかるという具合に。
2:エネルギー保存則
タイムマシンが抱える問題点として、エネルギー保存則に対する反逆も挙げることが出来る。タイムマシンが物質の存在を移動すると、移行に伴い、全宇宙の総質量が変わり、エネルギーの増減を意味しかねない。この点を回避しないかぎり実現はおぼつかない。
因果律に遵守した先のモデルでは、時空移行体が時間を遡る限り、二倍の質量が存在することになる。この点を回避するために、増量に相当するエネルギーをどこかにやらなければならない。しかし、エネルギー保存則を認識できるほど、エネルギーは消しようがない。
そこでとりうる方策は、移行体(往復二体)の質量をその時点の時空のエネルギーで構成することである。具体的には、時間を逆行する移行体は反物質で構成させるのだ。
好都合なことに、反物質は反対の性質を持つため、残された懸念事項である時間の逆行※を実現できる。
3:タイムマシンの恐怖。
斯様な仕組みで実現できるタイムマシンだが、その運用は悲惨であり壮絶を極める。
まず、質量は莫大なエネルギーなので、移行者は 反物質の生成量を節約する為に、極限(骨皮筋右衛門)までダイエットせねばならない。
移行中は時間逆行中、反物質で構成されることになる。反物質は正物質と触れると対消滅を起こすため、外気、外光(光子)、外人(機密保持)から隔離しながら移行することになる。そして移行中も実時間相当の時間がかかる。その為、移行者はあらかじめ用意した反茶碗で反パールライスを口に掻き込みながら反ウンコを垂れつつ、到着を待つことになる。このとき、陰湿な性格の者は反陰湿(明るい性格)と化し、内向的な者は外向的になり、自らの変化に戸惑いを覚えノイローゼに陥ること必至だろう。
そして反物質の光無き密閉空間で反社会的活動を営みつつ、ひたすら到着を待つのだ。目標時点に到達したとき、現地スタッフによって用意された莫大なエネルギーで反物質と対を成す正物質の自分を生成し、順方向時間に社会復帰できる。まずはスリムなボデーから恢復するのだが、リバウンドの恐怖にも晒される。そして二度目の時間を満喫しつつ、残る仕事は移行開始時刻に、昔の自分を 隔離して保存してある反自分で対消滅させる事で、時間旅行は完結する。
4:結論
そんなわけで、いつ、見知らぬ、時間軸と共に性格も歪んだ(アナーキスト経験者の)老いた自分が現れ、秘匿していた反自分と無理矢理対消滅させられるか判ったもんじゃないのである。桑原桑原。
注釈
登場:
机上理論学会の掲示板を経て私は知った。諸君も机上理論学会掲示板に定期的なチェックをされてはいかがだろう。URLは本論文集の巻末に掲載されているはずだ。
ドラいもん:
よくワカランが自律制御方式・畜生形自動機械で、大山のぶ代ライクな声を出すらしい。
因果律の壁:
ワープという観念は、この点を無視しているために実現できない虚構の妄想だ。
因果律の壁の回避:
「どこでも扉」でこれを行うと、目的地まで通路で繋がった二つの扉となる。
不確実な運命:
不確定性原理は主観の観念である。
(ビデオテープよろしく)確定している現実6の時空間連続体に於いて、時の流れに従って知覚している我々は、因果律は過去から未来に向けて束縛していると思いがちである。
確定している現実:
ラプラスの魔は客観の観念である。不確定原理とは矛盾しない。ただし(典型的な客観の想定対象である)神を否定する向きもあるが。
反物質は時間の逆行:
水戸黄門を見て、水戸光圀は万国放浪はしなかった!などと指摘する必要はございません。嘘だとしても、容認するのが大人の態度です(笑)。
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