足を向けて寝られない

穂滝薫理




 よく、人に借りを作った場合など、「○○さんの方には足を向けて寝られない」という言い方をする。しかし、そんな(恩のある)人が複数いた場合にはどうなるか。例えば360人もいた場合。
 少人数の場合は、寝る角度を精密にすることによって対処しうる。対象となる人が4人で、そいれぞれ東西南北に住んでいるとすれば、例えば北東の方向に足を向けて寝ればよい。補足すれば、現在その人がいる方向は特定できない。移動中かもしれないし。したがって、足を向けない方向は、その人がいつも住んでる家で代表させるしかない。相手もそれくらいは許してくれるだろう。
 さて、恩人が少ないうちは、対象となる人が多くなるにつれて、寝る方向も変えていけばいい。8人なら北北東、16人なら北北北東など。しかし、それ以上方向を厳密にして寝ることは現実には無理だ。
 というワケで早くも結論。16人(住んでいる方向が重なることもありうるから、正確には16方向)以上に借りを作るべきではない。
 再び補足。普通の部屋で寝る場合、部屋の広さは重要だ。一畳しかない部屋だと、寝る方向はほとんど2方向に限定されてしまう。多人数の借りに対処するためには、少なくとも自分の身長を直径とした円が納まるだけの広さが必要となる。しかし、ベッドで寝ている人はつらいかもしれない。足を向けて寝られない人が増えるたびに、重いベッドを動かさなくてはならないからだ。特に1人暮らしでアパートなどに住み、居間と寝室が同じ部屋の人は生活空間がいびつになる可能性がある。これらのことを考慮に入れ、また、ほとんどの部屋が矩形を基準にしていることを考えると、現実的な人数(方向)は4人までだ。そのへんをよく考えて借りを作るように。




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