早口言葉の本質

穂滝薫理



 有名な早口言葉に“東京特許許可局”というものがある。“と”とか“きょ”とかが繰り返し現われ、普通の人は、注意していても“許可局”あたりで、“きょきゃきょきゅ”てな感じで言い間違えてしまう。この言い間違いを引き起こさせるために、前半の“東京特許”は、たくみに組み込まれたワナなのである。一種の複線と言ってもいいだろう。
 本当か? 本当にそうなのか?
 と、私はここで思ってしまったワケだ。結局言いにくいのは“許可局”だけなのだから、別に“会社設立許可局”でも“ダム建設許可局”でもなんでもよかったハズだ。うそだと思うなら、試しに“水増し出張許可局”を早口で3回言ってみてほしい。やっぱり“水増し出張きょきゃきょきゅ”と言ってしまうだろう。そう、この早口言葉の本質は“許可局”にあり、“東京特許”は単にかざりに過ぎなかったのだ。一種の脱線と言ってもいいだろう。
 そこで、私は提案したい。早口言葉から余分な成分を取り除き、純粋に早口言葉のための早口言葉を抽出し、それを真の早口言葉としようではないか。この例ではもちろん、“許可局”が真の早口言葉となる。“許可局”を早口で3回言ってみよう。“きょきゃきょきゅ、きょきゃきょきゅ、きょきゃきょきゅ”。やっぱり早口言葉は難しい。念のため付け加えておくと、“東京特許”は何回繰り返しても言い間違うことがなく(そりゃ間違う人もいるだろうけど)、本質ではない。

 さて、同様にして、真の早口言葉とは以下のようなものとなるだろう。

 なまむぎ
 赤巻紙
 抜きにくい
 立てかけた
 柿客
 などなど。

 一般に流布している早口言葉から本質を見つけるのはそう難しいことではない。その言葉を何回か言ってみて自分が言い間違えたところを抜き出す。その後それ以外の部分を早口で言ってみて、間違えないことを検証すればいい。時には、1文字ずつ増やしたり減らしたりして精度を高める必要があるかもしれない。上記の“柿客”はその好例で、“柿食う客”と言ってみても、あまり言い間違わない。何度かの検証の結果、“柿”と“客”の連続がこの“となりの客はよく柿食う客だ”の本質であると判明したのだ。
 最強の早口言葉は、
 赤巻紙立てかけたなまむぎ引き抜きにくい柿客許可局
となる。かどうかわからないが、まぁこれは、お遊び。

 ところで、この“真の早口言葉”の問題点は、「そんなの早口言葉としてぜーんぜんおもしろくない」ということだ。
 早口言葉というものは、似たような音をもつ言葉を織り交ぜながらテンポよく3回繰り返すという言葉遊び的な面があるからだ。そして、だからこそおもしろく、人々の口にされているのである。実はそれが本論の結論であり、結局それこそが、真の“早口言葉の本質”だったのである。無念



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