渡辺ヤスヒロ
最近の若者は堪え性が無いと言う声を聞く事がある。少しも我慢と言うものをせず、嫌になったらとっとと辞めてしまったり諦めたりするという。昔は食うものも食えず、常に我慢を強いられていたために我慢強くなったという。果たして昔の人は本当に我慢強かったのだろうか? 別に疑っているわけではないが。
まず、『我慢強い』とはどういうことなのか?これをはっきりさせておく必要がある。
昔から、我慢の強さを計ったり競ったりするのに一般的に用いられてきた『我慢大会』を参考に考えてみようと思う。もちろん、夏の我慢大会である。暑い夏の日に、ドテラを着て、マフラーと毛糸の帽子と手袋をして、コタツに入り、七輪を焚き、暖房を入れ、鍋焼きうどんを食べる、あの我慢大会である。見ているだけで汗が出てきそうなこの競技は、本当に倒れたりする人が続出するためか非健康的として、残念ながら最近はそれほど見かけなくなっている。こうして季節を代表する風物詩が消え去っていくのは悲しい限りだ。
この我慢大会、本当に我慢強さを比較しているのだろうか?そうは言えないと言う論拠を以下に述べることにする。
この夏の我慢大会に出場し、一見我慢している様に見える人達であっても単純に我慢比べをしているわけでは無い。我慢している様に見える人でも以下の3要素が考えられる。
1.暑さに体が強い。
2.暑さに鈍い。
3.暑さを我慢している。(真の我慢)
つまりこの大会で優勝するためには、我慢強い以外にも上記1.2.の様な体質の場合でも可能である。この様な場合、優勝者をもっとも我慢強かった人物だと言う事が言えるだろうか?
更に考えを進めることにする。
我慢大会での優勝を目指し、鍛練に余念の無い人物がいたとする。彼は一年中部屋を締め切り暑さに耐える訓練をした。そして、前回の大会よりも遥かに暑さに耐えられる様になった。見上げたものだと言えよう。しかしここでも考えるべきだ。体を鍛えた彼は、前回ほど我慢していないのではないだろうか?なぜなら我慢と言う精神的な部分に到達する以前に、『こんな暑さ、へっちゃらさ』と言う状態になっているのである。ならば、我慢していないと言えるのではないだろうか?
つまり、通常訓練して鍛えられるのは精神的な我慢力ではなく、肉体だったりするわけだ。精神修行とは肉体修行に比べて難解で困難なのは修行僧の荒行を見ても分かる通りなのだ。
真の我慢とは何なのか。如何様にして比べたりできるのか。
我慢とはやはり精神的なものであるべきだとまずは考えてみる。肉体の丈夫さや鈍さを比べているのではやはり我慢とは言えないからだ。そして我慢とは、自分の意志の強さを示すものであるべきだとすると、自分でどうしようも無い状況に長くいたからといってそれが我慢強いとも言えないのである。つまり、「食べるものが無かったから食べることを我慢した」と言うのは「食べなかった」と言う結果があるだけであって我慢したかどうかは無関係であると言える。食べるものが無いと言う環境に置いては我慢強い人でも我慢出来ない人でも同じように食べられない。食べられず我慢出来なかった人が死んで淘汰されるかと言えば別にそう言うわけではない。精神的に腹ぺこで我慢出来なくても肉体的にはまだ多少の余裕があるものである。
我慢とは、いつでも本人がその状態を放棄出来る(辛い)状態を精神によって維持する行為でなくてはならないのだ。そう考えると「真夏の我慢大会」は、出場者がいつ棄権しても良い、言い換えれば棄権して快適な環境へ逃げ出すことが出来ると言う誘惑に精神力によって打ち克つと言う点では、割とイイ線行っていたのかも知れない。
さて、問題は真の我慢とは何かと言うことだ。ここで我慢大会の意図に反する結論を導き出すことが出来た。
『本当に我慢強い人とは、我慢できなかった人である。』
逆説的だがこれこそが真実なのである。我慢出来ている人はいまだに我慢の限界に達していないわけだから、我慢出来ていると考えることが出来る。我慢出来なかった人は、その人に取って我慢の限界を越えたから我慢できなくなったのだ。我慢の限界、この状態に自らを置くことこそ我慢大会だとすると余裕を持って耐えている人よりも耐えられなかった人の方こそが限界状態にいたと言える。我慢出来ている人はある意味、耐えられて当然なのだ。肉体的に差がある以上、精神的な我慢が最も出来た人物とは我慢出来なかった人であると言わざるを得ない。敗者にこそ栄光があったのだ。
初めの話に戻るが、堪え性の無い人が増えたと言う事はつまり自分の我慢出来る限界まで耐え抜いた上での結論を出している人が増えていると言う事である。真の我慢を知る彼らこそ尊敬すべき存在なのだ。なのだが、ここに大きな問題が残ってしまう。我慢出来るのに我慢してない怠け性の人間を区別することが出来ない事、それに全く堪え性の無い人は単なるワガママと言われてしまう事なのである。
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