永久機関論

高橋 英明




0:序論

「永久機関の提案者たちは一般に革新的な心をもっているが、彼らは一般に正規の工学的訓練を受けていない。これはとても不幸なことである。誰もが革新的な永久機関の機構につい騙されることがある。しかし、ことわざにもあるように、“うまい話は二度考えよ”である。」(参考文献[1]、p.207より(無断転載))
 この様に、「永久機関への例外無き否定」が「知識人の常識」に納まり久しい。だが新機軸に彩られた歴史を顧みれば常識として(経験則上)、「過去の常識は未来の非常識」である。
 本稿は新たな時代を切り拓くべく永久機関の実現を証明する試みである。
 だが我々に未来の特定能力が無い(…理性は可能性の指摘のみ為し得る)為、議論に先立ち次の二点を予めご了承戴きたい。
 一つ目は(議論を建設的に行う為に)、永久機関への要求を「半永久的」な範囲に控える事。
 二つ目は(自明の事ではあるが)、 論文は論者の不完全な認識を経る為、「一切の断定は推測の域を逃れない」と云う事実である。


1:(広義の)永久機関

 広く捉えるのならば、半永久的に動き続ける体系は、永久機関という名に相応しい。
さて、天体における惑星は恒星の周りを(半永久的に)回り続ける。
故に、永久機関は実在した(…惑星の公転など、天体は永久機関である)。

 しかし熱力学は 永久機関(の資格)に「使った以上のエネルギーを出せ」と、無理難題を要求する(…第一種永久機関)。


2:第一種永久機関

近年(の物理学)では、エネルギーが物質に転換可能だと考えられている。逆もまた然り(…物質はエネルギーに変わりうる)。
さりとて(相互に姿が移ろい合う間柄でも「氷」は「水蒸気」ではない様に)物質はエネルギーではない。
故に、永久機関は実在した(原子炉は第一種永久機関である)。

用語の定義を改訂すれば 知識人の「永久機関 = 永久に実現できない機関」という「結論」を護ることが出来る。
この状況では やがて 物質※1をエネルギーと認める事 が常識になって行くだろう。


3:第二種永久機関

過去、私は物をエネルギーではないと考えていたが、若気の至りとご容赦いただきたい。予測していたものの(それが執筆中とは思わなかった。)「質量はエネルギーの一形態」である事は既に常識※2と化した。
 但し、100億分の1程度しか転換されないため、無視されていたらしい。科学の進歩の早さには驚くばかりである。
 エネルギーの定義が変幻自在な以上、エネルギー保存則によって第一種永久機関は実現不可能に「なる」ことが証明された(いずれ時間や空間や次元を動力源にする日が来ようとも、エネルギーの定義が拡張されるだけである)。
 それでは永久機関肯定派に残された最後の砦、第二種永久機関※3に義論を進めよう。
 さて、重力場内で気体は、(高度を下る毎に重さが累積されて)不均一な圧力で平衡状態に至る事をご存知だろうか。
同様に、重力場(に代表される、物質に引力を持つ保存力場\footnote{保存力場:力場内の任意の点から出発して任意の道を通り、元の点に戻るまでに力場のする仕事が零になるような力場。[2]})内で 気体は、不均一な温度で平衡状態になる。
「温度差を得る機構」と「熱機関」と「温度落差を保つ為の熱源」の併用により「単一の熱源で稼働する熱機関」として振る舞う可能性を指摘しておく。


4:まとめ

議論や説得は、「自己の姿勢を顧みる者」同志でのみ、可能だ…が、彼らは常に不安と猜疑心に悩まされるのだから不幸である。
故に、我々は パラノイアと化す迄 知能を眠らせ(既知の認識を盲信し)主観的な幸福に安住してしまいがちである。
 「発明パラノイア※4」は「永久機関」の実現を信じている。その他方で「常識パラノイア※5」は「エントロピー増大」を信じて疑わない。
 だが本稿の目的は議論や説得であり、パラノイア同志の(優越感という幸福に浸った)罵り合いではない。得てして固定観念は怖ろしい程に堅牢だが、本稿が議論の種となり、諸君の「誤解と偏見」を覆せた事を期待する。
 無論、諸君に私の「誤解と偏見」をご指摘頂けるならばそれも幸いである。


5:蛇足

 第二種永久機関の議論で用いた「保存力場に於ける温度差発生」自体が無名なので、単純なモデルを添えておこう。


「立方体(一辺1km)状の純粋に真空な空間」、「ラドン原子ひとつ」、「保存力場」 の三つを用いる。議論を簡略にするため、「熱線の放射能」(輻射熱の放射と熱線の受け取り易さ)と熱伝導は考えない。
保存力場の加速度(g) は、高度に関わらず 10[m(s-2)]とする。
 まず最初に、(力場の)高い位置からラドン原子を放り込むと想定してみる。
高熱源方向へ落ちるラドン原子は高熱源では力場によりmgh のエネルギーを得る。
ラドン = 222[原子量][3]
炭素の原子量 = 1.99*10-23 [g]
ラドン原子一つの質量(m) = +1.99*10-23 * 222*(12-1) * 1*10-3[kg]
落下高度(h) = 1000[m]
落下による位置エネルギー(mgh) = 3.6815 * 10-21[J]
= 3.6815*10-21[J]/(1.38054 * 10-23 [J *(K-1)])
= 2.6667101 * 102[K]
(1.38054 * 10-23 [J * (K-1)] = Boltzmann 定数)
結果、落下に伴いラドン原子は+266.67度、高温になる。

逆の見方をすると、底から上面に登る(熱運動で慣性飛行する)原子は、(登れれた場合)-266.67 度 変化する。
(むろん、高温部にて266.67度K以下の温度では低温部に到達すら出来ない。
高温であっても、運動の方向が力場を登る方向を向かねば到達できない(…が、衝突の結果向きは変わり得るだろう)。)

(離散的な値ではないので量子化とは云えないだろうが、)このラドン原子で雲を(電子雲の様に)想像すれば、高度に応じ温度を特定する、「温度差を持った空間」が理解できるだろう(…なお、粒子数を増やしたところで、この効果を相殺する要因に私は思い当たらない)。
 熱はエントロピーの大きい乱雑な現象だが、その乱雑な衝突が衝突後の運動の方向をも乱雑にする。
 その乱雑性の為に 熱という運動エネルギーはその一部を確実に上に押し上げ、位置エネルギーに置換(…温度差が発生)する。

(…なお、「幾つかの点で無視した要素」が現実では、熱凝縮に多少影響するかも知れない。しかし、それはこの要素(熱の凝縮)を「皆無に相殺」 はしないと考える。なぜなら、指向性をもった現象を相殺するには、逆の指向性を持つ必要があるからである。)


参考文献
[1]Yunus A.\c{C}engel/Michael A.Boles,“永久機関”,「図説 基礎熱力学」(p.205-207),オーム社出版局
[2]原島鮮,“力場”,「新編 教養物理学」(p.34-38)、学術図書出版社
[3]R.S.Becker・W.E.Wentworth,"分子量の目盛り", 「一般化学(上)」(p.19-20),(株)東京化学同人
[4]原島鮮,“分子運動論”,「新編 教養物理学」(p.136-156)、学術図書出版社
[5]ゲーリーズ・カフ,“踊る物理学者たち Dancing Wu Li Masters”,青土社
[6]広瀬立成,“いろいろなエネルギー”,「改訂版 現代物理への招待」(p.66),培風館


おまけ 疑問への返答

・「熱の概念を誤解しているのではないか」
 熱の概念を、「分子の行う行動の平均の性質」と捉える向きが在る、が「存在と認識は同一ではない」。
解釈に先立つ前提は、(認識を規定するが) 存在を規定しうるものではない。
(荒唐無稽なSFX映画等の)妄想は「明確に認識できる」が「現実ではない」ように、「「認識上の真実」である「主観的事実」」が「「客観的にも真実」である保証」は無い。
 確かに(観測を元に概念を構築して認識を試みる時)、概念は解釈を制限する。だけれど、概念が 存在の本質を 規定すると考えるのは主観の過大評価だ(と思う)。
私は「熱を平均運動と捉える概念がモデルに過ぎず、 熱の本質を規定できない」と判断する根拠を知っている。それは先人の観測上の事実として、10-6m以下の大きさの物ではブラウン運動が観測される事である。
「熱を分子の行う平均の性質」とすると、熱からはブラウン運動は起こり得ない[4]。私はこれを、このサイズの粒子では、周囲から受ける運動が完全には相殺され得ず、微動を起こしていると理解している。

・「温度差が起こらないのではないか」
確かに先人の考察(bernoulli(ベルヌーイ)に拠る 「気体分子が作る圧力のモデル」など)では、温度差まで言及されていない。だが 圧力差や温度差への不到達は、力場が想定されていない考察では、当然の帰結である。
前述のように力場を想定した場合では、圧力差と温度差が生じる(筈である)と私は結論した。異論のある方にはその根拠をご呈示戴きたい。

・「何故あのモデルではラドンを使ったのか」
実は、非常に重い希ガスを用いた、かの例は極めて効率的に温度差を生じていた。質量の極めて小さい媒体のみで行われたとき、確かに温度差は極微量に成りうる。力場による影響は(加速度で示される事からも明らかな様に)質量の大小に左右されない。
また、特定の熱エネルギー(に相当する絶対温度)の運動速度は 質量に反比例する(…質量が小さいほど速く、質量が大きいほど遅い)。則ち、初期条件が同じ温度なら 軽い物質ほど 高く上がるのである。因みにこの物性に因る温度差の落差が (高位置の低熱源で排熱する為の)廃熱輸送を可能にする。

・「熱輻射を考慮に入れないのは問題ではないか」
熱線の熱交換に対してすら、輻射能の高いガスを充満させる事により高度に応じて熱線の強度が異なる空間に誂える[あつらえる]事が可能だ。  相対性理論が正しい場合、光子は無質量である。質量に比例した熱凝縮は、光子(…熱線)によって相殺されるだろうか?
その場合、(前提の相対性理論により)光子とて有限の(光速の)速さを越えられない。故に熱の伝達は、同時には行えない。だから光子で温度差発生を完全に相殺する事は不可能だ…と思う。思うだけで断言しないのは、恥ずかしながら私には質量のない粒子(…光子)という存在をいまいち想像できないからだ。いずれにせよ、具現策によって温度差発生の効率は左右するが、温度差発生の可能性は残るだろう。


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