藤野竜樹
最近筆者は、知人に物を送るときはいつも宅急便にしているのだが、それというのも近所にある24時間のコンビニエンスストアー(以下コンビニ)で受付が出来るためで、時間の自由が利かない社会人にとっては非常に重宝している。
斯様に、近頃のコンビニは宅急便に留まらず、電気・ガスの振り込みから、旅行代理店まがいの航空券などの依頼もでき、凄いところになるとCD機が置いてあったり住民票まで取れたりする。生活用品全般が手に入るという元々の用途も含め、正にconvenient(便利な)の一語に尽きる機能を持った場所になっている。
本稿はこうしたコンビニが将来、どういった方向性を持ち、その変革にどう対処していくかを示唆するものである。
コンビニ各社が熾烈な生存競争を繰り広げている以上、コンビニの将来において、上に示したようなサービスは更に向上していくと考えられる。そしてゆくゆくは株の売買や免許の更新など、現時点に於いて考えもつかないようなものまで出来るようになると思われる。しかし、それくらいで収まるなら本稿を書いたりはしない。コンビニに課されたサービス向上への課題は、一旦方向性を持って動き出した以上、立ち止まることは許されないからだ。何故って、我々の生きるのは無限の向上を盲信する資本主義社会なのだから。それは正に血を吐きながら続けるマラソンの様相を呈し、他店との差異化に狂奔するあまり、いずれ過剰を飛び越して過激な色彩を帯びるようになるだろう。そんな時の為の本稿だ。
では、上記のような手続き代行的なサービスの上を行くサービスとは何か。それは現在コンビニとはまったく関係のない他業種が行っている仕事に触手を伸ばすことで成し得る種類のものである。すなわちコンビニの枠を越えたサービスが始まるということであり、具体的には、電化製品の修理や散髪のようなものもコンビニで受け持つようになるということである。
そしてその調子でエスカレートしていけば、車の車検を出すのにコンビニに行くとか、人生相談にコンビニに行く、成人式や三回忌をコンビニでやるという、とにもかくにもいわゆる”サービス業”全般が、コンビニという一件の店で事足りるまでになるのである。いずれは、微熱があるからコンビニで診てもらおうとか、コンビニでやる簡易裁判で裁かれるといった事になるのは十分考えられる。
”揺り籠から墓場まで”
将来のコンビニはこの言葉をモットーに掲げてストイックなまでの精進に励まねば、他店との競争に敗れることになるだろう。
さて、このような考えを巡らしていくと、必然的に一つの問題が浮き彫りにされてくる。すなわち、これほどまでに増えてしまったコンビニの事務を、こなしきる人材が果たして見つかるのかどうかという点だ。翻ってこの問題は現在、実は一部で既に顕在化しており、先例に挙げた宅急便依頼など、たまたま働き始めて間もない店員にあたってしまうと、これは何だっけあれは何だっけともたついてしまい、手続きを済ませるまでに500ピースのパズルくらいは出来そうなほど待たされるなんて事も起こっているのだ。そうした現状から更にこなす業務が増えるとされる将来のコンビニで、この問題が深刻化すると考えるのはそう難しくはない。店員は、陳列する商品管理や依頼された事務手続きはもちろんのこと、突然かつぎ込まれてくる患者の応急処置や隣のアパートの夫婦喧嘩の仲裁、ラブホテル帰りの女子大生の着物の着付けやリストラされた中年紳士の人生相談までを行い、さらにその上でチビ太のおでんに芥子を添えてやることも忘れてはならないのだ。以上のことをそつなくこなす店員、高島政弘が如何に有能だとしてもそこまで出来るかどうか。
そうした問題を解決するための効果的な手段の一つとして、資格制度の導入が考えられる。コンビニで働けるのは、コンビニ各社で定めた一定の基準の試験に合格し、そうして得た資格を持つ必要があるとするのである。これは、コンビニ側がその資格を持った者を雇えばよいという明確な指標が出来るという単純なものだけではなく、人材育成手段としても使えるメリットを持つ。これはどういうことかというと、審査基準は当然厳しすぎるほどのものになることが予想されるが、それだけの試験にパスするほどの能力を持った者がいるとしたら、コンビニは喜んで破格の高給優遇をするから、その資格には千金の価値があるということになろう。そうなれば、後は資格取得流行にも乗ってゆくゆくは国家公務員試験や司法書士をもしのぐ価値を得るようになること請け合いである。ステータス“コンビニ認定士”を取ることにより将来の安定は保証されるから、多くの若者はそれを目指して必死で勉強するようになるのである。
かくしてコンビニで働くことは立派なホワイトカラーの仕事となってゆくのであり、コンビニ側は、店員の高給優遇をするだけで、人材供給を安定化させることが出来るのである。あとは若者達の流行を敏感に察知し、「“ローソン認定士”なんてだっせーよな。」「これからは“サークルK認定士”じゃなくっちゃな。」などの浮いた言葉に的確に対処すれば、21世紀をリードする企業となれるのは間違いないのである。
という訳でこの資格、先述のように超難関であるから、若者はこのためにコンビニ専門学校に行って学ばねばならないほどになることは言うまでもない。
ではその学資はどうやって作るのだろうか。当然、コンビニでバイトして稼ぐのである。
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