門馬一昭
アルツハイマー病という病気がある。脳細胞が萎縮し、自己の行動や周囲の状況を認識することが正常に出来なくなる奇病であり、確固とした治療法が未だに見いだされていない難病である。
この一般に老年性痴呆と言われる病気はその病因もまた判然としてはおらず、当然と言えば当然だが患者自身の自覚症状も無い。患者は夢遊病や幼児退行に代表されるような症状を示し、家族は年老いた無邪気な患者の世話に追われながら世の不条理を呪うのである。何で私達がこんな目に、と。やがて家族は患者をただの厄介者としか見なくなる。昔日の心暖まる団欒の記憶など介護の労苦に塗りつぶされて忘れ去られてしまい、ついには家族に殺意すら抱かれることもある。まことに恐るべき悲病であると言えよう。
それでは、かかる悲しい事態を招かぬためにはどうすれば良いのだろうか?前述した通り、アルツハイマー病には効果的な治療法が確立されてはいない。残念だが現在のところ同病患者に対しては手の打ち様がないのである。しかし、だからと言って簡単に諦めてはいけない。治療ができないなら予防すれば良いのだ。そもそもアルツハイマー病にならなければ何の問題も無いではないか。予防こそ最善なのだ。
だが、果たして病因すら明らかでないこの奇病を予防することが可能だろうか?答えはもちろんYESである。アルツハイマー病は脳細胞を萎縮させてしまう━━と言うのは冒頭で述べた通りだ、ならば脳細胞が萎縮しなければどうだろうか。常に脳細胞を活性化させ、アルツハイマー病の症状に先手を打って対抗し、予防するのだ。
問題は何を以てアルツハイマー病の症状である脳細胞の萎縮に抗するのかであるが、実は我々人類は遥か太古の昔からその手段を知っていたのである。乾燥させた葉を紙などで丸い筒状にして火を点け、ニコチンを主成分とする煙を吸引する━━煙草(TOBACCO)である。
煙草(TOBACCO)が何故、アルツハイマー病に有効であるのか? その理由と原理はこうである。煙草の煙に主成分として含まれるニコチンは、人間の中枢神経系に作用して興奮状態にする。もちろん中枢神経系とは脳細胞以外の何物でも無い。脳細胞を興奮させることが、即ち萎縮に対する活性化になるのである。
アルツハイマー病を予防するためには常日頃から煙草を吸うことを怠らず、脳細胞を活性化させ続ければ良いのだ。
賢明な諸君は、実際問題として煙草を長期に渡って且つ大量に吸い続けるのは却って健康を害するのではないかと既に御気付きの事と思われる。アルツハイマー病を予防するが故に煙草を吸い続けて肺ガンになったのでは本末転倒ではないのか、そもそも重要なのがニコチンならば肺ガンの危険を冒す煙草以外にも注射などの他の方法でも良いのではないか。これらの指摘はもっともである。無計画に煙草を吸いまくれば肺ガンになるのは当たり前である。長期的展望に基づいた計画的な喫煙こそが大切なのだ。もちろん必ずしも煙草でないと駄目というわけではないが、本論文では実際に民間レベルで実践可能な予防法について述べているので、医学的に可能でも安価たり得ない予防接種などの措置は考慮に入れないものとしている。
計画的な喫煙。これこそが本論文の主題である。今までにも一部の学者たちが、喫煙がアルツハイマー病の予防に有効であると主張したことがあった。しかし、彼らが中途に挫折せざるを得なかったのは、ひとえに「計画的な喫煙」にまで理論を昇華させることが出来なかったからである。そして筆者がたどり着いた計画的喫煙とは次の様になる。
「若いうちは徹底的に禁煙する。そして70歳を越えたらひたすら喫煙する。」
どう言うことかというと、アルツハイマー病が本格化、深刻化するのは統計的に見て70歳がひとつの区切りになっている。それでそれまでは健康を保つために禁煙し、アルツハイマー病が懸念される70歳頃から喫煙を始めれば最も効果的であると言えるのである。70歳を越えれば人間は大体何処かしら病んでいようから例え肺ガンになったとて今更何程の事もないだろうと言うことである。
筆者は思う。手をこまねいてアルツハイマー病になる位なら、肺ガンに冒されようとも死の瞬間まで自分が自分でいる事の方が重要なのではないか、と。
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