吉田拓郎が結婚するための11の方法

穂滝薫理・水田黄昏・渡辺ヤスヒロ




昔の吉田拓郎の歌で、
僕の髪ぃが〜肩までのびて〜
君と同じにぃなあったぁら〜
約束どおり〜町の教会でぇ
結婚しよーよー、んんん〜
という歌がありましたが、これじゃいつまでも結婚できないと考えられます。なぜならば、たとえば僕の髪と君の髪の差が10cmあったとして、僕の髪が10cm伸びる間に君の髪も10cm伸びるワケだから、僕の髪は君の髪の長さに追いつかないから。すなわち、“君と同じに”なるわけがないからです。
 しかし、いつまでたっても結婚できないと言うのもかわいそうなので、“僕の髪が君と同じなるまでのびる”方法を考えてみることにしました。

その1
 これは髪の毛ではなく、爪の話ですがギネスに挑戦してのばしていっても摩耗とかである長さ以上にはなかなかならないそうです。
 髪の毛も肩まで伸びたり腰まで伸びたりしているうちは大丈夫でしょうが、ふくらはぎまで伸びかかとまで伸びてくるとただ伸びっぱなしという訳にはいきません。地面とすれてすり減ったり、傷んで切れたりといった具合に、爪の場合と同様、ある程度以上の長さにのばすのは至難の業のはずです。
 つまり、僕の髪がギネスに載るくらい伸びたとしたら、おそらく彼女の髪はギネス記録+10cmではなく、ギネス記録と同程度で伸び悩んでいるのではないでしょうか?

だから、あの歌詞を
僕の髪ぃが、ギネスに載ってぇ
と書き換えれば問題なしです。

その2
 逆に、条件さえ整えば髪の毛はいつまでもどこまでも伸びるとします。すると、髪の毛が十分な長さまで伸びきれば、10p程度の差は無視することができます。たとえば、100mもあれば10cmの差など無視して構わないのではないでしょうか。100mまでいかなくても、十分な長さまで伸ばせば、2人の髪は同じ長さとみなすことができます。

その3
 髪の毛は夏と冬とで伸びる長さが違います。うろ覚えではありますが、夏が一日0.4mmで冬が一日0.3mm程度です。おそらく周りの温度の影響で新陳代謝のレベルが異なるのでしょう。これを利用します。
 僕の方はハワイかどこかで、アロハを着てウクレレをかき鳴らして陽気に暮らします。彼女の方はシベリア送りにでもして、重労働を科します。そうすれば、気温の違いによって髪の伸びるスピードが違いますので10cmの差くらいすぐに追いつきます。

その4
 薬品を使って、むりやり髪の成長速度を制御するという手も考えられます。僕の髪には成長促進剤を、君の髪には成長抑制剤を与えるのです。

その5
 彼女を亜光速ロケットにのせて、ウラシマ効果で10cm分伸びる分の時間を稼ぐという手もあります。

その6
 それより彼女を冷凍睡眠させて、10cm分伸びる分の時間を眠って貰う方が楽かも知れません。

その7
 タイ北部のある部族では女性の首に輪っかをどんどんはめ、首を長く延ばすという慣習があるそうです。そこでは首が長いほど美人と評価され、15cm以上の長さになることもあると聞いています。つまり彼女の髪を肩までの状態で保つ為に、彼女の髪が肩を越えて伸びた分を首も延ばすと言う方法もあるわけです。

その8
 高橋理論(註)によれば、最初の命題は、無意識のうちに初めから僕の髪の長さが君の髪の長さに追いつけないことを前提にして話を進めています。その前提に立っている以上、2人の髪が同じ長さにならないのは当然で、物事をこの問題の外から見つめる必要があるのです。そうすれば、自ずと僕の髪の長さが君の髪の長さを追い越すことが明らかになります。

その9
 新陳代謝の活発な子供の髪は速く伸びますが、老人の髪はあまり伸びません。そうです、この歌は子供である僕が、老人である君へ贈った、世代を超えた恋の歌だったのです。愛さえあれば歳の差なんて関係ありません。

その10
 彼女の髪が『僕』同様に伸びることを前提にしていましたが、伸びないのかも知れません。だからこそ自信を持って『僕の髪が』と自分の髪の伸びる事だけを歌っているのでしょう。
 そうです、彼女はカツラだったのです。

その11
 最初から“差”などなかったのかも知れません。とすれば、僕の髪が肩まで伸びた時点で『僕の髪ぃが〜肩までのびて〜 君と同じ』状態になっているのですから、誰にはばかることなく結婚できます。

 どうでしょうか?

(註)「アキレスと亀」のパラドックスにおいて、無意識のうちにアキレスが亀に追いつけないことを前提としてしまっていることを、見事に指摘した理論。
『机上理論学会 1997年前期論文集』参照。


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