杉山晃一
1.はじめに
先日、職場で家財保険加入の案内を貰った。地震、雷、火事、津波、盗難など、天災、人災によって大切な家財を保障しようというものである。凶悪化する犯罪や、どんな災害に見舞われるか分からない昨今、このような保険制度は大変有効であると考えられる。しかし、うまい話には必ず例外と裏が存在する。人間の価値観は多種多様である。個人にとっては命より大切なものであっても、他人にしてみれば屑同前のものがあるように、一般的に見て価値が見出せないようなものは保障できなかったりするのである。何百万何千万もしたダイヤモンドがいざ売りに出すと二足三文で買いたたかれることはよくあることである。自動車やコンピュータにしても然り。時間は有機物に限らず無機物の価値をも風化させるのである。
2.証拠写真の活用
ところで私の住んでいる部屋には古いものばかりで計算機が7台(ポケコンも含む。)、周辺機器が数多く存在する。全て時代遅れな代物である。でも貧乏なのと何よりも愛着があるので未だに使っている。ビデオデッキも拾ったもの、貰ったものを含めて3台が稼動している。そろそろ壊れそうである。CDとかビデオテープとか漫画まで含めると定価に換算したら数百万を軽く越えていた。但し実際には古本や中古ソフト、拾った物やもらった物が数多く含まれているので、それほどの投資はしていない。これらがもし、天災・人災によって消失してしまった場合、どこまでが保障されるのだろうか?「所有していたという証拠がない。」とか言われて全く保障されないかもしれない。そこでこれを裏付けるために、部屋の写真を撮っておいた。この写真も消失したら全てがパーになってしまうので、この写真は肌身離さず大事にすることにした。これでひとまず安心である。
3.『思い込み』情報理論
前節2.で述べたことを、情報理論の観点から捉えてみることにする。このことはつまり、膨大な所有物という情報を証拠写真のみに肩代わりさせ、あたかもそれが存在していると『思い込む』ことに他ならない。つまり写真さえ持っていれば、写された実体そのものは別に無くてもいいのである。物欲に走り過ぎ、足の踏み場もないくらい部屋が一杯になってしまった場合、それらの写真を撮っておけば、後は捨てようがどうしようが構わない。あると思い込めば良いのである。
上述のような情報のことを『思い込み情報』(Gen on Kind of Generation by Assume or Nearly Garble:略称GEKIGANGAR)と呼ぶ。
GEKIGANGARなる情報は1969年に星一徹さん(当時某球団監督)が提唱した『闘魂一発、弱点克服理論』(Do Compression of spirit and Jostle Weaknes:略称DOCOMJOW)を基盤として発達したものである。この理論が世に出た当初は、目の中に炎を燃やす「闘視力」やグランドで重いローラーを引く「魂騨羅」など、主に精神や肉体の鍛錬に利用されていたようである。その後、高度成長期に入って「思い込みテレビ」,「思い込み洗濯機」,「思い込み自動車」といった応用商品(いわゆる『思い込み三種の神器』(GEKIGANGAR 3))によって我が国の生活水準が飛躍的に向上した。また、最近の「思い込みビデオ」(GEKIGANGAR V)に至っては、旅先で非常にレアな番組の再放送(プリンプリン物語とかマルコポーロとかキャプテンフューチャー等)に出くわした時など、大変有効である。但し、GEKIGANGAR Vの取り扱い説明書には次のような注意書きが書かれている。
「御使用の際は『こんなこともあろうかと思って...』と、ほくそ笑むことを忘れないで下さい。」註1
4.まとめ
旅行に行った際、記念写真を撮ってくるのは、実は被写体やその背景、時空間までをも切り取り、思いこみ情報を圧縮していることに他ならない。GEKIGANGARを応用すれば重要書類だって核兵器だって某偉い方々だって証拠写真1枚さえあれば必要なくなるのである。
GEKIGANGARが完全に可逆な圧縮情報であるならば、ルジャンドルもハフマンもシャノンも真っ青の高効率圧縮が可能となる。更に突き詰めれば、GEKIGANGARにはフーリエ変換も確率過程論も必要としない。証拠写真に対する『思い込み』の力が強ければ強い程その効果が発揮されるのである。ただ、現状ではGEKIGANGARを可逆情報とするには多くの問題(Hな写真を子供に持たせないようにするとかアイドルのブロマイドにおける実体化防止プロテクトなど)が残っているが、今後それらは徐々に解決していくものと期待される。
註1 私はこれをうっかり忘れてしまったため、星飛雄馬とアトムの野球試合の放送を録り逃してしまい、大変後悔している。
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