瞬間移動の原理に関する考察及びその芸術への応用

水田徹・上野均



 テレポーテーション(瞬間移動。以下テレポートとする)はかなり知られたESP能力でありながら、その基本原理に関する考察はそれほど進んでいない。もっともこれはESP全般に言えることで、ESPをめぐる議論の多くは、それが実在するのか否か、と、その実証研究についてなされている。これはある意味で当然なのだが、ある程度のデータがそろい、それを真と判定した人々は、一足飛びに「なぜこういうことが起こるのか?」という原因究明のみに走り、「いかにして起こっているのか?」という現象の原理的把握を怠りがちであった。我々はその、現象の原理的把握から出発する。
さてテレポートは、他のESP能力(念動、テレパシー、予知など)と比べ、際立った特徴を持っている。それは実験によって確認された事例が皆無に等しい、ということだ。その意味ではテレポートとは極度に思弁的な、小説家の想像力に全存在を依存しているものだとも言える。つまり、テレポートはESPの可能態のひとつ、言い換えれば可能性を含んだフィクションである。それだけにアプローチもかなり純粋に論理的に構成することができるだろう。
では、ここで考えるテレポートを簡単に定義しておこう。テレポートとは、テレポートする主体Zが空間上の任意の点AからBへ非連続的に移動することを指す。「瞬間移動」と訳されることが多いが、移動に要する時間の長さは最重要項目ではない。Aにいたはずの主体Zが突然、別の地点Bに存在する。こうしたデジタル(に見える)移動の形式が、ここでいうテレポートである。
考えるまでもなく、こうした移動形式には危険が伴う。そのひとつが移動先Bにすでに他の物体が存在しているときだ。おおくの仮説では、壁や木など障害物のなかに誤ってテレポートしてしまった場合、分子衝突のため爆発してしまう、とされている。この仮説から導かれるテレポートの原理を、分子侵入説と呼ぼう。主体Zを構成する分子はいったん解体して移動し、設定された座標上で再結合するのだ。
しかし、ちょっと考えてみればわかるように、障害物のないところと考えられている場所にも、当然、分子は充満している。空気だ。空気を構成する気体分子との衝突の問題は回避されていない以上、分子侵入説では空気中のテレポートも不可能となってしまう。
これを回避するための有力な説明がある。気体分子の結合がゆるいため、容易に押し退けることができる、というものだ。これを特に分子割り込み説と名付けよう。先行する分子を押し退け、主体Zの分子が割り込んでいくのだ。しかし、金属や他の生物など、同等かより強力な結合力を持つ分子に対した場合、移動した主体Zの分子は再結合することができない。
 そこでまったく別種の原理を考えてみよう。分子総入れ替え説である。主体Zの分子は、移動先のZとまったく同じ形同じ大きさの分子群とそっくり入れ替わるのである。この方法だと、どこへ移動しようと分子衝突は起こらない。
 この分子総入れ替え説が正しいとすると、ある芸術技法が可能になる。テレポーティション彫刻がそれだ。まずAにおいて、故意に移動目標を固体内Bに定める(大きな岩など)。そして瞬間移動完了後、即座に、Bの外の空間Cに向けて移動する。するとAには、実物大の移動者の石像がある、というわけだ。ロダンも真っ青のリアリズム彫刻が、あらゆる素材で、瞬時に制作されるのである。いろいろとポーズをとったりして工夫していただきたい。

<参考文献>

 つのだ じろう 「うしろの百太郎」 (講談社)
 横山 光輝   「バベル2世」   (秋田書店)
 清田 益章   「超能力野郎」   (読んでないので知らない)

 なお、瞬間移動の他の論点、移動目標の設定、及び「身体」の範囲(衣服は入るか、あるいは接触しているものは?)、距離と重量に比例して移動者は疲労するか、などについては次回以降に論じていきたい。



論文リストへ