行って行った

穂滝薫理



 「おこなう」という言葉がある。「行」という漢字をあてる。送りがなは“活用部分を送る”という原則通りにいけば、「行う」と送るのが(国の国語審議委員会的に)正式な書き方である。
 しかし、この字はまた、「行なう」と送ることが認められている。つまりどちらの書き方をしてもよい、ということなのだが、私は必ず「行なう」と「な」から送るようにしている。理由がある。それは、「行う」という書き方をしていると、「行った」と書いたとき、「おこなった」なのか「いった(行くの活用形)」なのか見分けがつかないからだ。「行なった」と書いてあれば、確実に「おこなった」であると分かる。言わでものことだが、「おこなう」は「行う」と送り、「おこなった」は「行なった」と送るなどという案は即却下である。論外だ。
 「そのくらい(「いった」のか「おこなった」のか)前後の文脈から分かるだろ」という意見もあるだろうが、そういうものではない。前後の文脈から分かればいいのならば、極端な花志、こういう#き@だって&されてしまうだろう。私が述べているのは、意味が分かるか否かではなくて、分かりやすいか否かである。
 別の案として、「おこなう」とひらがなで書くという手もある。「行」は「いく」に限定しようという案だ。
 本当ならば、私もそうしたいところだが、「行なう」は漢字として、使用頻度が高すぎて、まだためらいが残る。正直に言えば、「行」という漢字に「おこなう」という意味を残しておきたい気持ちがある。例えば「行事」という熟語を見たときに、“いくこと”ではなく“おこなうこと”であるとすぐに分かるように。これが「下さい」であれば遠慮なく漢字を捨てて「ください」と書けるのだが。
 以上、ささいなことではあるが、やはり物を書く人間としてはこだわりたい。
 というわけで、みなさんも「おこなう」を書くときには「行なう」と送るようにしてはどうでしょう。



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