きたまくらで寝よう

ひあろ



 古来日本では、「きたまくら」は縁起の悪いものとされてきた。これは、死者を「きたまくら(つまり、まくら=頭を北方向、足を南方向)」になるように寝かせる習慣から来ているらしい。死人と同じ向きで寝るのは縁起が悪いと考えたわけだ。
 そいうものではない。
 という説がある。そもそも、なぜ死者を北向きに寝かせるようになったかと言えば、そうすると、安らかに眠れるからだと言うのだ。死者が安らかに眠っているか否かは知ることはできない。当然生きている人が北向きに眠って、安らかだったから、死者にも当てはめたものと思われる。ともかく、「きたまくら」だとよく眠れるのだ。だから、みんな「きたまくら」で寝よう、というのが、その説の真意である。
 人間にとって眠ることは非常に重要な行為である。よく眠ることは、前日の疲れ(肉体的/精神的)をとり、新たな1日を生き抜く活力を生み出す。逆によく眠れなかった次の日は、朝からぼんやりして、やる気もでない。さわやかな寝覚めをむかえられるならば、私でなくても「きたまくら」で寝てみたくなるのが人情だ。
 では、なぜ「きたまくら」で寝ると安らかに眠れるのだろう。
 まず、「北」(あるいは南北方向)を考えてみると、地磁気の影響が考えられる。南極と北極を軸にして、南北に磁力線が走っているのはみなさんご存じの通り。次に「安らかな眠り」だが、これは感じるものなので、脳の働きだと考えられる。脳内のある部分、あるいは全体かもしれないが、なんらかの電気的刺激のようなものが「安らか感」を生み出しているものと思われる。また、「血行がよくなる」ことは、健康的で疲れがとれ、コリがほぐれ、これも安らかな眠りの一要因かもしれない。
 つまり「きたまくら」だと、寝ている間の地磁気の影響が、血行や、脳の刺激に良い結果をもたらしていると考えられるのである。磁石を直接体にあてる健康法もあるくらいだから、それほど的外れでもないだろう。
 ここで、中学校の理科を思いだして欲しい。
 電流と磁界と力の向きはお互いに垂直になっているのだった。これをフレミングの左手の法則と言う(図1)。また、地球の磁界は南から北に向いている。脳内の刺激を電流の働きとし、血の流れを力とすると、「きたまくら」で寝たときに最も有効に働くしくみが人間の体にはあるに違いない(図2)。あるいは、脳内だけでなく、体全体にあるのかもしれない。
 不幸にして、私はこれ以上、医学的あるいは生理学的もしくは科学的知識がないため、そのしくみをつきとめることができないでいる。よって、この論文でも結論が出ないのであるが、ここに発表することによって、もっと詳しい人がその答を明かしてくれるかもしれないし、多少のインスピレーションでも与えられるかもしれない。そう思って不完全ながら、筆をとらせていただいた次第である。
 というわけで、どなたか、知識や方法やツテのあるかたが、本論を実証していただけることを願う。もちろん約束しよう。今後そのかたの方向には足を向けて寝ないことを。




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