ジャンケンに3倍強くなる方法

松野陽一



 ジャンケンの観察から発見された法則性およびそれを用いてジャンケンの勝率を向上させる方法。

 はじめに

 子供の生活の中には、ジャンケンをする機会がしばしばあるものである。それどころかジャンケンによって研究室配属が決まることもあり、日本ではジャンケンは人生においても決して侮れないものである。筆者もかつてはよくジャンケンをやり、1対1の勝負ではかなりの強さを誇っていた。特に3回勝つというやり方においては、ほぼ負け知らずであった。もちろんこれは偶然などでなく、その陰にはジャンケン研究ということがあったわけである。
 どのようにすればジャンケンで勝つことができるのか。これにはいろいろなテクニックがある。例えば「ジャンケンホーイッ!!」と猛烈な勢いで『早出し』をすると、相手は思わず負けてしまうものを出してしまいやすい、ということがある。筆者はこのことを称して「ジャンケンには『勢い』がある」と言っていたが、この技を用いた場合にはたとえ負けてしまったとしても「おまえ『後出し』やー」と言うという逃げ道が残されており、倫理的な観点を廃すると見事なテクニックと言うことができる。しかしこのような小細工ではたいして勝てない。ではどうすればいいのだろうか。

 対象の条件

 まず最初に、どのような方法によるジャンケンを考えるかを明らかにしなくてはならない。それによってこの技術が使用できる限界が定められる。
 ここでは、1対1で行い、かつ先に3回(あるいはそれ以上)勝てば良い、という場合のみを考える。よってそれ以外の場合ではこの技術を用いる効果は少なくなる。

 ジャンケン行動における規則性

 筆者はいろいろな人のジャンケンを観察した結果、多くの人にはジャンケンのやり方にいくつかの共通点があることを発見した。
 まず第一に、『あいこ』が続き始めるとなかなか止まらないということである。例えば、チョキとチョキであいこになり、次もチョキとチョキのあいこであった場合、その次にもチョキが出される可能性がかなり高い。最初がチョキ同士、2回目にはパー同士、といった場合は除く。
このことを、『ジャンケンにおける慣性の法則』と呼ぶことにする。
 次に、出す順序についての規則性である。あまり考えずにジャンケンをやっていると、グー・チョキ・パー・グー・チョキ・パー…(あるいはパー・チョキ・グー)と言った具合に、一定の順序で出してしまっていることが多い。これを『ジャンケン方向の保存則」と呼ぶことにする。ジャンケン方向とは、グー・チョキ・パーの方向とパー・チョキ・グーの方向の2種類であり、それが保存されるというのは個人個人で方向は決まっており、常に同じ方向をとる、という意味である。
 最初に出されるのは何であろうか。筆者の観測ではチョキが最も多く、続いてパーで、グーはかなり少なかった。これは、グーだと負けるときにはパーに包み込まれて負けてしまう、この包まれるということに対する恐怖感が最初にグーを出す人を少なくしているのだと思われる。
 最初に出すものとジャンケン方向とには相関が見られる。すなわち、最初にチョキを出す人はグー・チョキ・パーの方向(順方向と呼ぶことにする)が多く、最初にパーを出す人にはパー・チョキ・グーの方向(逆方向と呼ぶことにする)が多い。最初にグーを出す人についてははっきりとは分からないが、順方向が多いようである。ともかく、この最初に出すものとジャンケン方向との相関を『順方向・逆方向の法則』と呼ぶことにする。

 実戦への適用

 この3つの法則を利用することにより、実線において有利な立場に立つことが出来る。ただここで注意しなくてはならないのは、『ジャンケン方向の保存則』を導く過程において、相手があまり考えずにジャンケンをしているという仮定をしていることである。以下ではこの仮定が成り立つ場合について議論するが、その前にこの仮定を成り立たせる条件について考察しよう。
 相手が考えてしまうのは、ジャンケンをやってゆく時間間隔が長過ぎることに第一の原因がある。相手に考えさせないためには早いテンポでジャンケンをやっていかなくてはならない。そのためには、法則を用いて組み立てた戦術を記憶しておいて自分はほとんど考える時間を取らなくてもすむようにしておく必要がある。中には全くの乱数を用いる者や、どうしても考え込んでしまう者もいるが、これらの者に対しては残念ながらこの技術はほとんど効果がない。
 それでは具体的な場合について戦術を考えよう。条件は1対1、先に3勝とする。
 まず、最初に出すべきものである。これにはチョキが選ばれる。前節で述べた通り、相手はチョキ・パーを出す確率が高くグーを出す確率が低いのであるから、パーには勝ちチョキにはあいこ、負けるのはグーのみのチョキが最も優れている。
 2回目以降については1回目のパターンで3通りに分けて述べる。

A:相手がパーを出してきた場合
 自分はすでに1勝している。相手が逆方向であると仮定して2回目にはグーを出す。これにも勝てば3回目はパーで良いだろう。2回目に相手の出したのがグーであれば、3回目もグーを出す。これでもあいこなら次はパー。決着がついたら、あいこが途切れたところから次に相手が出すものを考える。
例:(自分グー 相手グー)→(自分パー 相手チョキ)の場合
 相手は順方向であると考えられるから(1回目パー、2回目グーなので)次にはチョキを出す。(←相手はパーを出すと予想して)
2回目に相手が出したのがパーであれば逆方向を予想して次にもグーを出してみるが、相手は考えてやっている可能性が強いので、期待は出来ない。

B:相手がチョキを出してきた場合
 あいこであった。相手は順方向であると仮定して2回目にもチョキを出してみる。このとき相手がパーなら(1勝)、3回目にはパーを出す。
2回目にも相手がチョキを出してきたら3回目にはグーを出す。この後の展開についてはAの場合と同様。
2回目に相手が出してきたのがグーであれば相手は逆方向であると考えて続ける。

C:相手がグーを出してきた場合
 1回目は負けである。一応相手を順方向と仮定して、2回目にはグーを出す。相手がチョキを出してきたら順方向、パーを出してきたら逆方向と考えて続ける。
相手が出してきたのがグーなら、考えてやっている可能性も高い。チョキを出して様子を見て方向を判断する。
1回目がグーで逆方向の場合には最初2連敗することになるが、相手が方向通りに出していればその後3連勝できるので問題はない。細かいところを省略したが、3つの法則を用いればたいていの場合には対応できるのでそこのところは自分で考えて欲しい。

 実戦での効果

 それではいままで述べてきた方法を用いてどのくらい勝つことが出来るものであろうか。筆者がこの検証に用いたのは「アメリカ横断ウルトラクイズ(日本テレビ系)」のジャンケンである。これならばサンプルの数が多いし、3つの法則が筆者の周囲だけのローカルな傾向なのかどうかも分かる。
 実際に行ったのは画面の左側に立った人の立場となって次に出すべきものを考える、という方法である。「ウルトラクイズ」ではかなり時間間隔をとってジャンケンをしているのでこの技術の適用は不利だと考えられたが、結果は技術適用側の圧倒的勝利であった。すなわち筆者が勝った場合が断然多く、残りのほとんどは結果が分からない場合(画面の中の人がすぐに負けてしまったような場合)であり、筆者の負けというのは1回あったかどうかくらいであった。
 この実験の多くの副産物は「多くの人は考えているように見えても考えていない」ということであった。そのせいでこの技術の適用に支障が無かったのであろう。
 最後に、実は最近の「ウルトラクイズ」ではそれほど勝てなくなったことを付け加えておく。あそこではみんな考えてジャンケンをするようになったのであろう。

 以上である。この技術がお役に立てれば筆者の幸いである。



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